日本IBMが2007年10月から、パートナー企業に対し“再々委託”の全面禁止を求め始めたことが、IT 業界に波紋を投げ掛けている。国内ITベンダーの多くが、「原則禁止」の方針ながらも、多重請負を黙認してきたからだ。内部統制強化を背景に、請負構造の見直しが進みそうだ。

 再々委託の全面禁止とは、日本IBMが受注した案件の開発などを請け負う企業に対し、1度の外注は認めるものの、外注先がさらに外部に委託することを禁止するものだ()。

日本IBMは再々委託の全面禁止を通達し始めた
図●日本IBMは再々委託の全面禁止を通達し始めた

 従来も日本IBMでは、再々委託は原則禁止だった。だが今後は、「一切の例外を認めない」とするほか、3次請負を利用しないことを契約書に明記しない限り、パートナー企業契約を結ばないとする。委託先についても、会社名や責任者名などを事前申請し、審査を受ける必要がある。すべてのパートナー企業が事実上、日本IBMの監督下に置かれることになる。

 この動きについて、情報サービス産業協会(JISA)で多重請負問題を議論する「取引構造改革委員会」の有賀貞一委員長(CSKホールディングス代表取締役)は、「黒船の到来だ。外圧に頼るのは本意ではないが、多重請負構造の見直しは避けられないだろう」と語る。2007年10月18日に開催された同委員会でも、「この流れは変えられない」との見方が強かったという。

 本誌が国内の主要ITベンダー15社に問うたところ、再々委託を全面禁止しているのは富士通、大塚商会、CSKホールディングスの3社のみ。日立製作所やNEC、NTTデータ、野村総合研究所(NRI)、TIS、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、「原則禁止だが、事前の書面申請によって認めている」という。「ルールはあるが、実態が伴っておらず公表できない」と、口をつぐむベンダーも少なくなかった。

 日本IBMの再々委託禁止は、米本社主導によるものだ。「日本IBMとしては一切、コメントできない」(同社広報)という。日本IBMは2004年度に、内部規定に違反する形で2億6000万ドル(当時の約270億円)もの機器販売を不正計上した。その後も、元部長の架空取引や循環取引への関与の可能性が報じられている。米本社からすれば、「利益構造などが不透明になりがちな日本の取引慣行を放置できなくなり、本社直轄に切り替えた」(同社関係者)とみられる。

 しかし、再々委託を事実上認めている国内ITベンダー各社は、「すぐに再々委託を禁止する予定はない」と口をそろえる。国内でも、日本版SOX法の適用や進行基準による売り上げ計上が始まるなど、取引内容の透明化は待ったなしのはずにもかかわらずだ。

 富士通など再々委託の禁止で先行する企業は、内製化率の向上を急ぐ。具体的には、「オフショア開発の推進を含め、グループ内の開発リソースを増強する」(富士通)、「システムの開発効率を高める」(大塚商会)といった取り組みだ。「委託先を一定以上のスキルと規模を持っているベンダーに集約する」(CSKホールディングス)動きもある。

 取引形態の見直しは、IT業界の再編を促す可能性が高く、ユーザー企業にとっても、発注先選定にかかわる大きな課題となる。内部統制がシステム構築・運用に与える影響は、決して小さくはない。