「日本版SOX法(J-SOX)への対応活動をムダにしたくない」――。内部統制を研究テーマに掲げる団体が相次いで発足した。いずれの団体も、J-SOX対応におけるいたずらな負荷の軽減を図ると同時に、企業競争力を高める内部統制のあり方を研究・提言していく。

 内部統制を研究テーマに昨年末に発足したのは、「After J-SOX研究会」と「日本内部統制研究学会」の2団体()。いずれも、日本企業における内部統制の取り組みが、J-SOX対応のみで終わってしまいそうなことへの問題意識が、団体設立の原動力になっている。

内部統制をテーマに発足した団体の概要
表●内部統制をテーマに発足した団体の概要

 金融庁企業会計審議会内部統制部会長であり、日本内部統制研究学会の発起人の1人でもある八田進二 青山学院大学大学院教授は、「日本では『形だけ整えればよい』という結果になりがちだ。日本企業の経営健全化に向けては、日本なりの内部統制があるはず」と強調する。

 これからの内部統制のあり方を考える両団体だが、その視点は異なる。まずAfter J-SOX研究会が掲げるのは、内部統制を通じたERM(エンタプライズ・リスク・マネジメント)や連結経営の促進だ。ERMは、財務報告のみならず、経営活動全体のリスクとその対処法を明らかにする考え方。会長に就いた田尾啓一 立命館大学大学院教授は、「J-SOXに対応するために企業は、膨大な量の文書化を進めている。せっかく業務を可視化しているのだから、もっと広範囲に活用すべき」と話す。

 参加メンバーは、アビームコンサルティングやプロティビティジャパンといったコンサルティング会社と、NECや日立製作所などITベンダーに所属する個人約70人。今後は、研究会独自の内部統制の成熟度モデルを開発し、2008年初頭にも公表する計画だ。ITガバナンスのフレームワークである「COBIT」を踏まえたものになるという。

写真●日本内部統制研究会の創立総会の様子
写真●日本内部統制研究会の創立総会の様子

 一方の日本内部統制研究学会は、「日本企業にとって最適な内部統制の整備・運用方法を検討する」(同会会長の川北博 静岡県立大学客員教授)のが目的だ。参加者も、内部統制の研究者と公認会計士、弁護士が中心で、ほかに新日本製鉄の関哲夫常任監査役や、オリックスの宮内義彦 取締役兼代表執行役会長・グループCEO(最高経営責任者)などが産業界からの代表として評議員に就いている。

 同学会は、J-SOX対応について「経営、会計、法律の3つの観点から議論し、米国流からの脱却を目指す」(川北会長)という。日本の内部統制研究者の間には、「米国流の内部統制を孫引きするだけで、本来の趣旨とは異なる内部統制を整備・運用している企業がある」(同)との見方が広まっている。

 08年度はJ-SOX適用の本番年。対象企業にすれば、たとえ最小限でもまずは対応を終えたいところ。だが、「日本企業が不得手な連結経営のあり方を考えるのに、J-SOX対応は最高のチャンス」(After J-SOX研究会の田尾会長)でもある。両団体が計画する成果物の詳細は未定だが、企業のJ-SOX対応の負担軽減や効率化の参考になりそうだ。