100Gビット・イーサネットは,現行の10Gビット・イーサネットの10倍もの伝送速度を実現する。この速度は,WAN系伝送技術の1波当たり40Gビット/秒を上回る。ここでは,次世代イーサネットの基本仕様を確認するとともに,いかにして高速化を実現しているのかを見ていこう。

用途に合わせた伝送速度と距離

 まず大前提として,次世代イーサネットでもデータ伝送の単位であるMACフレームのフォーマットとバイト長は従来と同じ。つまり,最も古い10Mビット・イーサネットから次世代の100Gビット・イーサネットまで,フレームのレベルでは完全に互換性を持つ。

 次世代イーサネットの速度は,100Gビット/秒と40Gビット/秒の2種類が定義されている。100Gビット・イーサネットはネットワーク用途,40Gビット・イーサネットはサーバー用途に利用する。

 100Gビット・イーサネットは,40km,10km,100m,10mという4種類の最大伝送距離が定義されている。40Gビット・イーサネットでは,100m,10m,1mの3種類である(表1)。

表1●次世代イーサネットの仕様
比較のため,10Gビット・イーサネット(10GbE)の仕様も挙げた。次世代イーサネットの仕様は,現時点で有力と考えられるもの。正式に決定した時点で変わる可能性がある。なお,あまり利用されていないが,10GbEには4波長のWDMを使う「10GBASE-LX4」という規格もある。
[画像のクリックで拡大表示]
表1●次世代イーサネットの仕様

 ネットワーク用途では,広いデータ・センター内でケーブルを引き回したり,都内のデータ・センター間でメトロ・ネットワークを構築したりするため,ある程度長い伝送距離が必要となる。そこで,100Gビット・イーサネットには40kmと10kmが定義されている。この40kmと10kmは,サーバーの接続には長すぎるので,40Gビット・イーサネットの仕様にはない。

 逆に,40Gビット・イーサネットでは,サーバーのきょう体内で利用するために1mという最大伝送距離が決められている。この距離はネットワーク機器の接続には短すぎるため,100Gビット・イーサネットでは定義されていない。

 利用する伝送メディアは,伝送距離ごとに決められている。40km,10km,100mには光ファイバ,10mと1mには銅線を利用する。

 このほか,光ファイバを使った伝送距離に3k~4kmという距離を追加するかどうかIEEEで議論中だ。10Gビット・イーサネットでは,距離と光部品のコストの兼ね合いで伝送距離の仕様が10kmと40kmに分けられた。次世代イーサネットでは,導入済みのシステムとの互換性から,10kmと40kmを踏襲した。しかし,光部品のメーカーから,コストの観点からは3k~4kmで分けるのは適切ではないかという提案があった。現在,3k~4kmという距離を追加するのか,あるいは10kmの代わりに3k~4kmにするのかを含めて検討している。

10kmと40kmにはWDMを利用

 10kmと40kmには,「シングルモード・ファイバ」(SMF)というタイプの光ファイバを使う。光信号が劣化しにくく,長距離伝送に適している。

 10Gビット・イーサネットまでは,1波長で光信号を送っていたが,100Gビット・イーサネットでは,異なる波長の光信号を束ねる「WDM」と呼ぶ技術を使う。WDMは,これまで主に長距離の大容量伝送技術として利用されてきた。

 WDMの波長数については,4波長を利用する方式に決まりそうだ(図10)。この場合,100Gビット・イーサネットでは1波長当たり25Gビット/秒,40Gビット・イーサネットでは10Gビット/秒となる。

図10●100Gビット・イーサネットでの高速化手法
図10●100Gビット・イーサネットでの高速化手法
1波長当たりの伝送速度は25Gビット/秒にとどめ,複数の光信号を束ねる「WDM」(wavelength division multiplexing)や,複数の心線を束ねた「リボン・ケーブル」を利用して100Gビット/秒を達成する。

もはや他の伝送方式の技術を転用できない

 WDMの利用には,「そもそも光伝送の高速化が限界に近づいており,1波長当たりの高速化が難しくなってきている」(NTT未来ねっと研究所 メディアイノベーション研究部 メディアネットワーキング方式研究グループリーダの石田修主幹研究員)という背景がある。

 従来のイーサネット仕様は,別の伝送規格の要素技術を利用して高速化してきた。100Gビット・イーサネットは光伝送技術を使う。現時点で最も高速な光伝送技術は,WAN系伝送技術で使われている40Gビット/秒である。しかし,2000年以降は1波当たりの伝送速度の高速化が止まってしまい,主にWDM技術によって伝送容量の拡大を図っている状況だ。つまり「現在の技術で,実用的なコストで(100Gビット・イーサネットの)製品を作るには,WDMを使う方法が現実的」(日立製作所 中央研究所 ネットワークシステム研究部の西村信治部長)となる。

 ただし,KDDIやアルカテル・ルーセントなどによって,1波長で100Gビット/秒を実現する方式も提案されている。この提案は将来の仕様追加を見越したもの。「1波長だけで100Gビット/秒を伝送する技術は実用レベルには達していないが,将来の仕様追加を考え,技術を示しておきたかった」(KDDI研究所 光ネットワークアーキテクチャグループの森田逸郎主任研究員)としている。

100mには束ねた光ファイバで高速化

 100mの仕様では,同じく光ファイバを使う。ただし,WDMを使うのではなく,多心の光ファイバ・ケーブルを使い,1心に1波長の光を通す。距離が短ければ複数の光ファイバを使ってもコストはかからない。むしろ,WDM用の高価な部品の利用を避けた。また,光ファイバの心線自体には,SMFよりも安価な短距離用のマルチモード・ファイバ(MMF)を使っている。

 多心のケーブルには,10本の心線を平面的に並べた「リボン・ケーブル」と呼ばれるタイプを利用する。現在よく使われている12心のリボン・ケーブルを流用する場合,12心のうち10心だけを光信号の伝送に使い,残りの2心は利用しないことになる。