仕様策定と製品化の流れは,次世代イーサネットでも他のIEEEの標準規格の場合と同様となる。機器ベンダーは仕様策定の進行状況を横でにらみつつ,同時並行で製品開発を進めていく。ここでは,次世代イーサネットの仕様策定と製品化のタイムラインをまとめる。

2010年5月に標準規格が完成

 次世代のイーサネットの規格を策定するため,IEEEでスタディ・グループ「HSSG」が結成されたのは2006年7月である(図11)。スタディ・グループの役割は,仕様策定前の準備をすること。実現可能かどうかをチェックし,速度や伝送距離などの目標仕様を設定する。目標仕様が決まると,それを実現するための具体的な技術仕様を決めるためのタスク・フォース(TF)が作られる。2008年1月に「IEEE802.3ba」というタスク・フォースが設立されることが決まった。

図11●仕様策定と製品化のタイムライン
図11●仕様策定と製品化のタイムライン
赤色の2008年以降の部分は,IEEEで決められた予定。青色の部分は取材に基づき,本誌が推定した。
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 2008年9月には,仕様のドラフトの第1版「ドラフト1」が作られる。このときに,技術仕様の大枠が固まる。最終的に仕様策定が完了するのは2010年5月の予定である。

規格の完成を待たずに製品が登場

 10Gビット・イーサネットの場合,標準規格が完成する半年前には製品が販売されていた。100Gビット・イーサネットの場合も,正式な標準化の前に製品が登場する可能性が高い。

 米エクストリーム ネットワークスは,2008年末から2009年初めにかけて,100Gビット・イーサネット対応のレイヤー3スイッチを出す予定だ。「2010年に実需があるとすると,ユーザーはその半年前の2009年には検討を始める。そのときに実機があるとないとでは印象が違う」(エクストリーム ネットワークス 営業本部 市場開発部の和田完部長)。

 米ファウンドリーネットワークスも,仕様策定前の製品投入もありうるという。「ユーザーが伝送能力が高い製品を要求すれば,それに応えて規格の完成前に製品を出す可能性はある」(High-End & Service Provider System Business Unit,Product Management & Market-ing担当のアメド・アブデルハリム ディレクタ)。

 米シスコはもう少し慎重な言い方をしている。「当社のユーザーは標準規格に準拠した製品を望んでいるため,いつの時点で仕様が確定するのか注視している」(Core Routing Business Unit,CRS Marketing担当のサミーア・パリック マネージャ)という。ただし,同社の現行製品「Cisco CRS-1」は,100Gビット・イーサネットに対応できるバックプレーンの帯域を備えているという。

WAN系伝送技術との相互運用がカギ

 次世代イーサネットは,インターネットのバックボーンで使われるといっても,伝送距離の仕様は最長で40km。一つの都市内にあるデータ・センター間をつないでメトロ・ネットワークを構成するぐらいにしか使えない。

 通信事業者のバックボーンには,40kmを超える長距離伝送が必要になる。例えば,東京と大阪を結んだり,太平洋を挟んで日米間を結んだりするといった場面である。この場合,伝送距離は数百k~数千kmにも及ぶ。ここで活躍するのは,長距離・大容量のWAN系伝送技術である。

 以前は短距離で使うイーサネットと長距離で使うWAN系伝送技術は独立して考えられていた。しかし最近は,広域イーサネットなどのサービスが一般化し,ユーザーのMACフレームをWAN系伝送技術で効率よく運ぶことが重要となっている。そこで次世代イーサネットでは,WAN系伝送技術との相互運用性が重要なテーマとなっている。

 WAN系伝送技術として,従来は「SONET(ソネット)/SDH」と呼ばれる技術が使われていたが,最新のネットワークではSONET/SDHの後継であるOTNが使われ始めている(図12)。OTNの規格で最も高速なものは,40Gビット/秒の「OTU3」である。その次のバージョンである110G~130Gビット/秒の「OTU4」は,現在ITU-Tで策定中である。

図12●イーサネットと長距離用トランスポート技術の使い分け
図12●イーサネットと長距離用トランスポート技術の使い分け
イーサネットは40km以内の短距離で利用する。40kmを越える長距離伝送にはSONET/SDH(synchronous optical network/synchronous digital hierarchy)の後継であるOTNを利用する。

10Gの反省を100Gに生かす

 実は,10Gビット・イーサネットのときに,イーサネットとWAN系伝送技術の相互運用性で,大きな問題があった。

 10Gビット・イーサネットのLAN向けに作られた仕様(LAN-PHY(ランファイ))では,MACフレームのデータ・レートは10Gビット/秒になっている。それに対応するSONET(OC-192)のペイロードは約9.95Gビット/秒とわずかに遅いので,MACフレームをそのまま運ぶことが難しい。このため,データ・レートをSONETに合わせた「WAN-PHY」という仕様も設けられた。

 ところが,結局ユーザーが価格の安いLAN-PHY仕様の製品しか使わなかったため,キャリアは,ユーザーのMACフレームを透過的に伝送するのに非常に苦労したという。また,ベンダー側も,誰も買わないWAN-PHY(ワンファイ)対応製品の開発費が無駄になってしまった。

 こうした経緯を踏まえ,次世代イーサネットでは,MACフレームのデータ・レートはLAN向けの1種類だけにすると決められた。そのうえで,OTNのサポートを提供する。さらに,キャリアの強い要望によって,次世代イーサネットの目標仕様の一つに「OTNの適切なサポートを提供する」ことが掲げられた。

 すでに規格が完成しているOTU3のサポートには,イーサネットとOTNのインタフェースを持つ長距離伝送装置で,何らかの対策を施すことになりそうだ。まだ規格が決まっていないOTU4については,ITU-Tがイーサネット規格完成を待って,対応を検討する方向だという。