NTT東西地域会社の技術参考資料から,NGN商用サービスの技術仕様が明らかになった。技術参考資料は,端末の設計やネットワーク構築に必要な技術情報を提供するドキュメント。NGN商用サービスに関する技術参考資料は,NTT東西が2007年12月25日から同社のWebページ上で公開している。

写真1●NTT東西が公開したNGN商用サービスの技術参考資料
写真1●NTT東西が公開したNGN商用サービスの技術参考資料
広域イーサネット・サービスを提供するためのインタフェース仕様を示した「LAN型通信サービス」の技術参考資料の表紙。http://www.ntt-east.co.jp/ngn/business/index.htmlまたはhttp://www.ntt-west.co.jp/info/support/ngn.htmlでダウンロードできる。

 今回公表された技術参考資料は3種類。(1)「IPネットワークサービス(データ通信)」,(2)「IPネットワークサービス(音声通信)」,(3)「LAN型通信サービス」──である(写真1)。

 これらの資料の内容を詳しく見ると,現在のフレッツ系サービスと同等のサービスを提供する機能を,NTT東西のNGN(次世代ネットワーク)が一通り備えていることが分かる。さらに,現行のフレッツ系サービスからの強化点も技術仕様にはっきりと示された。

 以降,(1)~(3)まで,順を追ってフレッツとNGN商用サービスの技術面での共通点と仕様を点検していく。


アクセスとIP-VPNは変化なし

 (1)は,IPを使ったデータ通信サービスに関する技術仕様を説明している。具体的には,(a)光ブロードバンド・サービス,(b)IP-VPNサービス,(c)コンテンツ配信サービス──という3サービスにかかわるインタフェース仕様を記述している。

 (a)の光ブロードバンド・サービスは,FTTHを使った個人ユーザーあるいは企業ユーザー向けのブロードバンド・アクセス回線サービスである。資料を見ると,現行のフレッツとNGN商用サービスはほぼ同じ仕様で,どちらもPPP(point-to-point protocol)あるいはPPPoE(PPP over Ethernet)を使って,ユーザー端末と網の間にIPパケットをやり取りするための仮想的な回線(セッション)を設ける仕組みだ。

 (b)のIP-VPNサービスについては,「センターエンド型サービス(VPN)」という名称で,現行のIP-VPNサービス「フレッツ・オフィス」と同様の機能を備えていることが分かる。

 フレッツ・オフィスとNGNはどちらも,IP-VPNの「RADIUS」と呼ぶ認証プロトコルを使い,認証に成功した正規ユーザーだけをVPNにつなぐ仕組みになっている(図1)。

図1●フレッツ・オフィス型のVPNサービスに回線情報による認証機能を追加
図1●フレッツ・オフィス型のVPNサービスに回線情報による認証機能を追加
右側の図は「次世代ネットワーク上で提供を予定するIPネットワークサービス(データ通信)のインタフェースについて初版」の「センターエンド型サービス(VPN)編」に基づいて作成。左側の図は,NTT東日本の技術参考資料に基づいて作成した。
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 しかし,RADIUSでユーザー認証に使う情報の種類は異なる。フレッツの場合,「電話番号」と「フレッツナンバー」の2種類だが,NGNでは「発信者回線情報」と呼ばれる情報を使う。ただ,これが具体的に何を指すのかはドキュメントに記述がない。

帯域確保型の技術仕様を盛り込む

 (c)のコンテンツ配信については,帯域確保のための仕様が記述されている。今回,NGNの目玉である帯域確保型通信サービスの技術的な裏付けが示された格好だ。

 具体的な仕様では,配信サーバー(センタ側端末機器)とユーザー端末(エンド側端末機器)の両方に「SIP-UA」と呼ばれるソフトウエアを実装し,SIPを使ってNGN網に必要な帯域を要求する機能を持たせている。IPパケットの転送品質を決めるための記述仕様(SDP)についても規定している。

 このほか,テレビ映像をIPv6で配信するためのIPマルチキャスト仕様も記載する。この部分は,NTT東日本の「FLET’S .Net EX」やNTT西日本の「フレッツ・v6キャスト」などの仕様を取り入れた内容となっている。

 (2)の音声通信は,加入電話と同等のIP電話サービスのための仕様を説明する。IP通信用のプロトコル,呼制御のためのプロトコルなどは,現行のIP電話サービス「ひかり電話」とNGN商用サービスで共通している。大きく異なる点は,メディアのペイロードの仕様である。

 具体的には,NGNの仕様では音声コーデックが多彩になった。ひかり電話は従来の加入電話と同等の「G.711 μ-law」(3.4kH幅)だけだったが,NGN商用サービスでは高音質のG.722(7kHz幅)などが追加されている。また,テレビ電話のためにH.264などの動画コーデックが加わった。

広域イーサは耐障害性を強化

 (3)のLAN型通信サービスは,広域イーサネット・サービスのための仕様を述べている。まずフレッツ・ユーザー向けの現行サービス「ビジネスイーサ」とNGNを比べると,基本的なプロトコルが共通していることが分かる。

 最も大きな相違点は,NGNでは県内網をつなぐ県間網があること,NTT東西同士をつなぐことを想定した「協定事業者網接続回線」があることの2点である。これによって,県や東日本/西日本という枠を越えた広域イーサネットを利用できるようになる(図2)。

図2●県内網を相互接続する県間網のインタフェースを提供
図2●県内網を相互接続する県間網のインタフェースを提供
右側の図は「次世代ネットワーク上で提供を予定するLAN型通信サービスのインタフェースについて 初版」に基づいて作成。左側の図は,NTT東日本の技術参考資料に基づいて作成した。
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 さらに,アクセス回線を冗長化する「デュアルアクセス」と,イーサネット・レベルで網内を監視する「Ether-OAM」の採用など,ビジネスイーサに比べて耐障害性を強化するための機能が盛り込まれた。

 ただし,NGNの広域イーサネットでは,バックボーンの中継回線の帯域を別途契約する必要があり,その帯域を超えるフレームは廃棄されるという,使い勝手が悪い仕様を引き継いでしまった。それに対し,大企業がバックボーン構築に使う一般的な広域イーサネットでは,アクセス回線から流れてくるフレームを中継網が確実に転送し,途中で廃棄はしない。

 今回の技術参考資料を見る限り,残念ながらNGNの広域イーサネットは中小企業向けのサービスにとどまっている。