“全自動おそうじ”など数々の新機能を盛り込み、注目を集める温水洗浄便座一体型便器「アラウーノ」(松下電工、左)。上は、温水洗浄便座単体の「ビューティ・トワレ」(松下電器産業)
“全自動おそうじ”など数々の新機能を盛り込み、注目を集める温水洗浄便座一体型便器「アラウーノ」(松下電工、左)。上は、温水洗浄便座単体の「ビューティ・トワレ」(松下電器産業)

 省エネ意識の高い調査員Aは、温水洗浄便座のスイッチをこまめに消すのが日課だった。だが、夜間に冷たい便座に座るのは辛いと家族が反対。「冬場の夜間は、便座を温めておくことになった」と渋い表情だ。

 これを聞いた調査員Bが、「それなら、使う時だけ便座を温めてくれる製品に買い替えるのも方法」と、便座の瞬間暖房を採用した松下電工の「アラウーノ」を紹介。国際連合大学の安井至副学長も、「実は私も買い替えを検討しているところでね」と分け入り、今回の議論が始まった。

表1●温水洗浄便座の方式
表1●温水洗浄便座の方式

 アラウーノは洗剤を使って便器を自動的に洗う機能を一番の売りにしている。しかし、調査員の関心は、便器と一体の温水洗浄便座にある。

 これまでお尻洗浄用の温水については、貯湯式の代わりに瞬間式が登場して省エネが図られた歴史がある。同製品は便座の温めも瞬間的に行う“ダブル瞬間式”だ(表1)。

 調査員Bは「人を感知して、すぐに1200Wのヒーターを立ち上げ、6秒後には適温に上げる仕組みだ」と解説。1日中便座を温めておく必要がないので節電につながるという。新しい機能の登場に、安井副学長は興味津々。「まずは、従来の瞬間式に比べて消費電力量がどれだけ減るのか情報収集してくれ」と指示した。

瞬間的に温める節電効果は大

 早速、各種資料を当たり始めたのは調査員Aだ。省エネルギーセンター発行の「省エネ性能カタログ」で有用な情報を発見し、「アラウーノの年間消費電力量は、メーカー実測値で90kWh。従来の瞬間式で省エネ1位の『ネオレストA』(TOTO)が172kWhだから、半分近い省エネを実現したことになる」と報告。調査員たちは「これだけ大差がつけば、議論するまでもない」と舌を巻く。

 だが安井副学長は、あくまでも慎重な姿勢だ。「公開されたデータを比較するだけでは不十分。便座の瞬間暖房が、製品自体の省エネにどれだけ貢献しているのかを見極めることが肝心だ」と言い、90kWhの内訳を分析するよう求めた。

 消費電力量を構成する要素は主に3つ。便座ヒーターの始動時(消費電力1200W)と、便座を一定温度に保つ安定時(同62W)、そして温水洗浄(同1225W)だ。それぞれに費やす時間を想定すれば、自動的に消費電力量を計算できる。

 このため調査員は、カタログに記された測定条件(男女2人ずつ・1日合計12回使用など)を基に詳細な使用方法を想定した。男性の小用でも瞬間暖房をすることから、6秒かかるヒーター始動は1日12回で合計72秒と仮定。ヒーターが温まった後の安定時や、温水洗浄の秒数についてもシナリオを描き、電力消費量の内訳を導き出した(表2)。合計で約91kWh。メーカー発表の90kWhとつじつまが合う。

表2●「アラウーノ」年間電力消費のシナリオ(調査員作成)
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表2●「アラウーノ」年間電力消費のシナリオ(調査員作成)

 これを見た安井副学長は、「仮にアラウーノとネオレストAの温水洗浄が同等の消費電力量だとすれば、残りが暖房便座の分ということになる。つまり、ネオレストAの暖房便座は172kWhから59kWhを差し引いて113kWh。アラウーノは9kWhに23kWhを足して32kWh。便座の瞬間暖房がもたらす省エネ効果は、想像以上かもしれない」と感心した。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
様々な製品分野の生産技術に詳しく、LCA評価手法の向上にも熱心に取り組む
 
                 
  調査員B   調査員B
東大安井研究室のOG。LCAのインパクト分析が専門で、重金属や情報技術に精通する
  調査員C   調査員C
企業と市民双方の視点でグリーン購入のあり方を研究し、具体的な基準作りにも参画する
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ