住友スリーエムの中村隆夫さんは社歴36年、生え抜きの部長であり、かかわってきた業務もIT(情報技術)一筋。ITが本来あるべき評価を受けるために尽力している。会計・生産・販売と業務のすべてのIT化を推進、今話題の「見える化」を当時から行ってきた。そして、業務に飽きたらず会社の枠を越えたIRM(Information Resource Management)研究会の発起人となる。

 ITはほかの業務の見える化に貢献し、その見える化が他部門の改善を促すが、自分たちはそのプラットフォームを作るだけで、自らを評価されるシステムを持っていない。IT部門も製造部門と同じものづくりであり、その管理手法に変わりはない。そこには生産工程がある。例えば、製造部門は生産管理のために部品票を維持する。部品を変更すると、それを用いる生産品に反映される。プログラミングも同様。プログラムの部品票を管理しておけば、在庫管理ができるはず。製造部門が不良資産や過剰在庫を持つと責任問題となるが、情報部門にこの考え方はない。当時、米国の雑誌に掲載された「Information is Corporate Asset」という言葉が中村さんの心に響いた。中村さんは、IRMで、情報を資産として見ようと訴え続けた。

 にもかかわらず、プログラミングの世界では、作るほうの生産性にばかり重きが置かれている。IT大手は、所有するプログラミングの数を競い、短期間でたくさんのプログラミングができることを競う。中村さんは苦言を呈した。「製造部長だったら、あなたはクビですよ」と。製造部門であれば、在庫の数を競うことはなく、在庫を効率的に管理することこそが求められるからだ。

 中村さんは、IT資産の在庫管理法を考えた。例えばJob Control Languageでログを取り、過去1年間で全く動かなかったJobと、全く使われなかったプログラムを消していく。ファイルライブラリーも同様に、全く使っていない不良在庫のプログラムとライブラリーは消去され、情報部門の生産性は向上した。中村さんは情報部門の現場を見える化し、堂々と資産を公開し適正な管理をすることが地位の向上につながると考える。

 今、このITをプロダクトとサービスに組み入れるプロジェクトを推進している。バックオフィスのITが「売り」のコアになる日も近い。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA