第3回はモバイルWiMAXの特徴的な技術を解説する。システム・プロファイルのWave-2ではスマート・アンテナ技術や「Band AMC」(adaptive modulation and coding)をオプション機能に採用することで,周波数の利用効率やシステムのスループットを高めている。モバイルWiMAXで利用するRF(radio frequency)技術やアンテナ技術,セル設計技術も紹介する。
複数のアンテナと信号処理技術を併用
モバイルWiMAXでは,複数のアンテナを利用してデータを送受信するスマート・アンテナ技術を採用している。以下ではスマート・アンテナ技術を構成する4種類の技術,すなわち(1)STC(space time coding),(2)SM(spatial multiplexing),(3)collaborative MIMO(multiple input multiple output),(4)ヌル・ビームフォーミングのそれぞれを見ていこう。
(1)STC
送信ダイバーシチ効果を得るための技術。1系列の情報を時空間ブロック符号で複数系列のデータに変換し,複数のアンテナを使って送信することにより受信側でダイバーシチ利得を得る(図1)。この主な実装としては,Siavash Alamouti(シアバッシュ・アラモウチ)氏が提案した「Alamouti」がある。
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図1●STCの構成 複数の送信アンテナを使うことでダイバーシチ効果を得る。上記のように,送信側だけでなく受信側でも二つのアンテナを使用すると,4重のダイバーシチ効果を得られる。 |
(2)SM
複数データを複数アンテナから送信し,受信側で一つのデータにまとめる技術。一般に空間多重と呼び,「シンボルレート」×「多値数」(ビット)×「アンテナ数」の伝送速度を得られる(図2)。受信側には送信側以上のアンテナ本数が必要となる。受信側の信号処理が重要で,精度や回路の規模に応じて「MMSE」「MLD」「干渉キャンセル」などの手法がある。
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図2●SMの構成 複数のデータを複数のアンテナから送信し,受信側で一つのデータにまとめる。 |
(3)collaborative MIMO
MIMOを使い,複数ユーザーのデータを複数アンテナで処理する技術。SMは1ユーザーの送信を前提としているのに対し,collaborative MIMOでは複数ユーザーのデータを受信できる(図3)。マルチユーザーMIMOとも呼び,アップリンク(上り方向)に使用する。
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図3●collaborative MIMOの構成 複数ユーザーのデータを複数アンテナで処理する。 |
(4)ヌル・ビームフォーミング
隣接する同一サブチャネルを利用して複数のユーザーが通信できるようにする技術(図4)。ベースバンド処理でアンテナの重み付け(複素数)を設定することで,干渉波に対してアンテナの指向性(角度)がヌル点になるように制御する。
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図4●ヌル・ビームフォーミングの構成 隣接セルのユーザー端末が出す干渉波に対し,基地局の受信アンテナを重み付けしてヌル点に制御する。これにより,近接する基地局で同じ周波数帯域を使用することが可能になり,利用効率を高めることができる。 |
特殊なサブキャリア配置で伝搬特性を改善
Wave-2のもう一つの特徴的な技術にBand AMCがある。IEEE802.16e-2005に準拠した「SOFDMA」(scalable orthogonal frequency division multiple access)方式の無線フレームは,時間軸と周波数軸の2次元の構成で表現できる(図5)。時間軸の単位はOFDMAシンボル,周波数軸の単位はサブチャネルで,OFDMAシンボル×サブチャネルの単位で各ユーザーに帯域を割り当てる。
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図5●SOFDMAの無線フレーム構成 時間軸(横軸)と周波数軸(縦軸)の2次元で構成する。図はIEEE802.16e-2005標準から引用,一部修正した。 |
サブチャネルは複数の物理サブキャリアを束ねた論理単位であり,どのサブキャリアを束ねて1つのサブチャネルを構成するかは任意である。通常はサブチャネル間の干渉を軽減するため,ランダムな配置のサブキャリアを束ねてサブチャネルを構成する。これに対してBand-AMCでは,物理的に隣接するサブキャリアを束ねてサブチャネルを構成する特殊なサブキャリア配置を用いる。特にユーザーが移動しない固定系システムで伝搬特性を改善する効果がある。
Band AMCの仕様では,隣接する9個のサブキャリアをセットにした「bin」を基本単位として,N個のbinとM個のOFDMAシンボルを掛け合わせた「N×M=6」が帯域の割り当て単位となっている。N×Mの組み合わせは「1×6」「2×3」「3×2」の3種類があり,下りと上りの両方向に適用できる。