「サービスの形態をどう市場に合わせ込むか」では、あえてSMB向けの保守サービスに注力し、リコーテクノシステムズのように「新たなシステム提案の起点にする」という“逆転の発想”でビジネスを拡大している企業もいる。

 「SMBに対する運用保守は手間がかかりすぎる。手離れの良い商材に絞る方が得策だ」と考えるソリューションプロバイダは少なくない。だが、あえてSMB向けの保守サービスに注力し、「新たなシステム提案の起点にする」という“逆転の発想”でビジネスを拡大している企業もいる。

 「地方の中堅・中小企業市場を捨てる気はさらさらない」。NJCの宮野部長はこう語る。NJCは2006年春から山陰エリアを皮切りに、地方顧客に食い込んでいる地場のSIerと次々に提携。自社ソリューションのサポートサービスを提供している。

 具体的な仕組みはこうだ。NJC側が、問い合わせを受けるコールセンターや商材、保守部品の物流システムなどインフラ部分を用意。地場のSIerがオンサイトのサポート業務を請け負い、ユーザー企業に提供する。10月までに協業先のSIerを27社にまで広げて全国体制を整えた。

 これに加えてテレビ会議システム「recipe.meetingリモート保守」を利用し、NJCのエンジニアも直接遠隔サポートを行えるようにした。2007年7月からは300床未満の病院を対象に、ネットワーク経由で業務システムの有人監視する「Machサポートパック」を提供。10月からは他の業種向けソリューションにも、同様のメニューを追加している。

中小の悩みを診断シートで聞き出す

写真●上はリコーテクノシステムズの保守要員が顧客に手渡すIT診断用シートで、下はNJCの遠隔サポート用ソフト「recipe.meetingリモート保守」の場面
写真●上はリコーテクノシステムズの保守要員が顧客に手渡すIT診断用シートで、下はNJCの遠隔サポート用ソフト「recipe.meetingリモート保守」の場面
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 「保守サービスを起点とした営業」という発想を地でいくのがリコーテクノシステムズ(RTS)。中小企業向けにブロードバンド環境の構築と運用支援をパッケージした「NETBegin BBパック」の拡販に、複合機のメンテナンスを担当する2000人以上の保守エンジニアを活用している。

 エンジニアが複合機のメンテナンスで訪問した際に、取り出すのは「診断シート」。ユーザー企業にIT化の悩みを聞き出すためのツールである(写真)。「中小企業はパソコンやネットワークの問題を自力で解決するのが当たり前。そんなとき、複合機の保守エンジニアが手助けすることで顧客から信頼してもらえる」(石下義治東京第2支社中央事業部中央NW営業部長)。販売を担当するリコー販売の営業が、エンジニアから回収した診断シートをもとに潜在ニーズを洗い出し、実際の提案活動につなげている。「営業担当と保守エンジニアが連携するこのスキームを作ったのが2006年秋。この1年でBBパックの販売は倍増した」(リコー販売の大浦康彦東京事業本部中央事業部千代田営業部長)。


サービス価格の見せ方を変える

 現在、SMB市場に向けたITサービスの形態として、SaaSも重要なテーマに浮上している。ただしソリューションプロバイダには「SMB市場に向くかどうかは不透明感が強い」「意外にSMBの企業層はシステムの所有にこだわる」と、慎重な見方もある。

 システム導入の敷居を下げるという観点だけなら「まだ先にできることがある」(NECネクサの土師部長)。その筆頭として、情報システムのレンタル化に取り組む動きが出てきた。

 例えばNOSが2006年に開始したERPの定額利用サービス「FineCrew NX」は、ユーザー企業がレンタル感覚で利用できるソフトライセンスの定額提供方式(図1)。その特徴は初期導入コストをならすだけでなく、今後に発生する機能追加や改修作業も定額料金で請け負うことにある。

図1●NOSはERPを定額料金で提供し、導入の敷居を下げた
図1●NOSはERPを定額料金で提供し、導入の敷居を下げた

 NOSはこのサービスのために利益率を削ってはいない。ユーザー企業には加入時の契約で「ある顧客向けに開発した機能は、NOSが他のユーザーにも利用する」という条件を受け入れてもらう。ユーザー企業が増え、NOSが追加開発した部品の再利用が高まることでNOSは収益を確保する。

 京セラ コミュニケーションシステム(KCCS)も年末までの期間限定ながら、自社の文書管理ソフト「イソロジー」のレンタル提供を開始した。初期費用262万5000円、年間保守料39万900円の製品を年間50万4000円で提供する。「開発費が固定のパッケージなので、顧客層が中小企業に広がることで、十分に利益拡大が見込める」(佐々木節夫常務)と言う。

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 これまで紹介したSMB市場に取り組む各社の手法からは、「成功の方程式」を一つだけ導くことはできない。強みにするソリューションや狙う顧客層が変われば、SMB市場の中でも方法論はがらりと変える必要がある。広大なSMB市場から、自社の強みが生きる顧客層と攻略法を探し出してほしい。