日経ニューメディア副編集長の田中正晴氏
日経ニューメディア副編集長の田中正晴氏
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 多くの携帯電話機にも搭載されたワンセグ。しかし,ビジネス面ではまだ模索中だ。そこで,新しい波(周波数帯)を利用してケータイ向けテレビサービスを提供しようという動きがある。2011年に終了する地上アナログテレビ放送で空く周波数帯を利用するものだ。

 現状は利用できる帯域が決まった段階だが,携帯端末向け放送の「技術基準がどうなるかが最大の焦点となっている」と,日経ニューメディア副編集長の田中正晴氏は,2008年1月30日に行われた「ITpro EXPO 2008 名物記者によるトレンド解説 次世代テレビ・ケータイの行方」と題した講演で語った。

アナログテレビ放送の跡地は4つの用途で利用

 田中氏が最初に説明したのが,2007年春に電波有効利用方策委員会で大枠が決まったアナログテレビ放送の跡地の利用法。主に携帯機器向けのものといわれている(1)放送,災害対策などを念頭においた(2)自営通信,交差点における出会い頭の衝突防止システムで利用する車車間通信の(3)ITS,(4)移動体通信--の4つである。(1)放送(合計35MHz幅)と(2)自営通信(35MHz幅)がVHF帯を,(3)ITS(10MHz幅)と(4)移動体通信(40MHz幅)がUHF帯を利用することになった。

 このうち「放送」は,VHF帯の中でもローバンド(18MHz幅)とハイバンド(17MHz幅)に分かれて使うことになった。これは携帯機器で利用するにはアンテナを小さくできることなどからハイバンドがよい。しかし,世界的にはローバンドは放送業務に割り当てられており,コミュニティー放送を提供したいと考えているグループなどがローバンドを希望したためと田中氏は説明した。

最大の焦点は技術基準

 利用できる波が決まると,次は利用する技術基準や法制度などに焦点は移る。現在,総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」(以下,懇談会)が議論の場となっている。

 関係者が最も重視しているのが,技術基準についてだ。主要なものとしては,地上デジタルテレビ放送の方式である「ISDB-T」をベースにしたものや,米国で実用化が始まっている「MediaFLO」(米QUALCOMMが開発)などがある。

 ワンセグで利用されているISDB-Tは,周波数の一部を切り出した部分受信が可能な方式。狭い周波数帯を利用するので低消費電力化が図りやすい。ISDB-Tはさらに,ワンセグで利用されている方式(ISDB-T)のほかに,地上デジタルラジオで利用されている「ISDB-Tsb」(1セグメント形式と3セグメント形式がある)があり,ISDB-Tsbを基に今後の携帯向けマルチメディア放送向けに「ISDB-Tmm」といった方式がある

 これに対し,MediaFLOは,ISDB-Tで採用された周波数分割と,欧州で広まっているDVB-Hで採用された時分割による方式を組み合わせたような新しい方式だ。

 ISDB-Tmmを推進しているのが,フジテレビや伊藤忠商事,NTTドコモなどが出資するマルチメディア放送企画LLC合同会社と,同社や国内の様々な業種の企業が参画するISDB-Tマルチメディアフォーラム。これに対し,MediaFLOを推進するのはKDDIとクアルコムジャパンが出資するメディアフロージャパン企画と,ソフトバンクが出資するモバイルメディア企画である。

 このほかでは,ISDB-Tsbを推進しているのがデジタルラジオ推進協会と,FM東京など3セグ放送を推すマルチメディア放送ビジネスフォーラムである。また,IBOC(米国で導入されているデジタルラジオの方式)の導入を目指すFM放送のグループや,日本コミュニティ放送協会などがある。

 これまでの懇談会の様子をまとめると田中氏は,人気はISDB-TファミリーやMediaFLOなどが推進するグループが希望しているVHFハイバンドに集中している。技術方式としては,海外に日本の方式を売り込んでいる最中でもあるのでISDB-Tmmの実用化を図るという方向になる見込みである。問題はISDB-Tmmのみにするか,MediaFLOも含めた複数の方式を認めるかという点になっているとした。