写真●ITpro副編集長の高橋 信頼氏。プレゼンテーションにはLinux搭載PCとOpenOffice.orgを使っている
写真●ITpro副編集長の高橋 信頼氏。プレゼンテーションにはLinux搭載PCとOpenOffice.orgを使っている
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 「オープンソース・ソフトウエア(OSS)は,一時的な流行ではない。これからあらゆる領域で当たり前になるだろう」。ITproでオープンソース/Linuxサイトの担当を務める高橋 信頼・副編集長(写真)は,2008年2月1日,「ITpro EXPO 2008 名物記者によるトレンド解説」で,OSSの今後について力強くこう予測した。

 高橋氏はまず,ミッション・クリティカルなサーバーやミドルウエア,オフィスソフト,組み込みソフト,業務アプリケーションなどの分野における事例を挙げ,OSS利用の現状について概観した。

 ミッション・クリティカルなサーバーに関しては,2009年11月に稼働予定の「東証株式取引システム」を取り上げた。このシステムは,処理性能が6億件/日,応答性能が10ミリ秒以下,可用性が99.999%以上,開発費が300億円というもので「これだけのミッションクリティカルなシステムは世界中をさがしてもなかなか無い」(高橋氏)。3台のLinuxサーバーを使うことで可用性を高め,すべての処理をメモリー上で行うことで処理性能を高めているという。

 さらに,米Googleが数十万台と言われるLinux搭載サーバーを利用していることを指摘。「Googleに限らずWebサービス系の企業でOSSを使ってないところは無いのではないか」(高橋氏)と語り,その理由として「OSSでないとアクセス単価が低いWebサービスで利益を出すことができない」ことなどを挙げた。

 デスクトップ関連では,自身の講演におけるプレゼンテーションでもLinuxとOpenOffice.orgを使っていることに触れた後,アシストが社内の700台のPCでMS Officeを削除して,OSSのオフィスソフトOpenOfficeに移行した事例を挙げた。3年間で1700万円のライセンス料を削減できることを紹介し(ただし,移行のためのユーザーサポートの費用は含まない),経費削減の手段として検討してみるべきだと語った。

 デスクトップ関連ではほかに,米マサチューセッツ工科大学(MIT)などによるプロジェクト「One Laptop per Child」に言及した。このプロジェクトは,発展途上国の子供向けに低価格のLinuxノードパソコンを提供しようとするもの。1台の価格として100ドルを目標にしており,今は170ドルくらいだという。発展途上国ではパソコン自体が高価であることに加えて,ソフトも高価なので海賊版が横行しており,「例えばタイではソフトの85%が海賊版という統計が出ている」(高橋氏)。政府がOSSの採用を後押しすることで,こうした状況が改善されるだろうとした。

OSSは「IT産業に流れる地下水のような力」から生まれた

 組み込み用途では,LinuxをベースにしたGoogleの携帯電話プラットフォーム「Android」と,デジタルテレビの例を挙げた。Androidについては,NTTドコモが公式に採用を表明しており,貧弱なハードでも軽快に動くよく出来たプラットフォームだと評価しているという。デジタルテレビについては,日本製の製品のほぼすべてがLinuxを搭載しており,シャープやソニーがテレビに搭載しているLinuxのソースコードをダウンロードできるようにしていることを紹介した。家電製品では主に,Webブラウザやネットワーク機能を安く開発するためにLinuxが採用されているという。

 講演ではほかに,Ruby以外にも日本から世界に向けたOSSの発信が増えつつあることや,「Ruby City松江」といった地域の産業振興へのOSS活用事例について紹介。さらに,OSSのビジネスモデルが成熟してきたことに伴って企業の買収・合併が増加していることや,今後,大きな買収・合併が起こる可能性を指摘した。

 高橋氏は最後に,OSSは商業ソフトに対する単なるアンチテーゼや,一時的な流行ではなく,「IT産業に流れる地下水のような力から生まれたもの」であることを強調し,この流れは今後も拡大していくだろうとして講演を締めくくった。ここで「地下水のような力」としているのは「ベンダー・ロックイン(囲い込み)からの解放」の流れを指す。

 同氏によると,ここ20年くらいでオープンシステムによるベンダー・ロックインからの解放が実現し,現在は,オープンソースによるソフトのベンダー・ロックインからの解放が起こっているという。さらに今後の,Web 2.0やSaaSといった「サービスの時代」においてはデータによるロックインが起こる可能性を示唆し,ロックインが起こらないように,メディアやユーザーは注意していかなければならないと語った。