橋下知事の誕生で大阪府が猛スピードで動き出した。財政問題を直視し既得権益に切り込む姿勢には賛成だ。だが「壊す改革」だけでは真の改革にならない。官民を問わず抜本的な経営改革では「壊す」と同時に「創る」ことにも取り組むべきだ。そもそも自治体は企業ではない。赤字はよくないが「削る」「壊す」改革だけでは地域は疲弊する。今回は「壊す改革」と「創る改革」の関係について考える。

◎大阪府財政非常事態宣言
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/joukyou/13sengen/index.html

壊す改革の成果

 わが国はこの20年、「官から民へ」と「小さな政府」をキャッチフレーズに「壊す改革」に取り組んできた。壊す対象は非効率な巨大官僚機構だ。嚆矢は20年前の国鉄改革。その後、国と自治体の多くの事業・組織が廃止、民営化、独立法人化された。集大成が昨秋の郵政事業の民営化だ。さらに2006年の公益法人制度改革で政府系公益法人が特権的地位を失うことになった。「壊す改革」は以上のような外科的手法だけでない。内科的手法も充実してきた。官僚組織の透明性や内外からの統制・けん制をきかせる方法、たとえば情報公開、政策評価、規制緩和などが整備され、効果を発揮しつつある。

「壊す」から「創る」へ

 だが改革には「壊す」ことと同時に「創る」ことが必要だ。理由は多々ある。第1に公共分野の中心課題はかつての公共事業や産業振興から年金、教育、福祉分野に移りつつある。こうした分野の課題は官業の廃止や民営化といった経営改革手法だけでは解決できない。第2に官業の受け皿としての民間企業への信頼が揺らいでいる。数々の偽装や不祥事が典型である。第3に「創る改革」を同時に見せれば「壊す改革」への抵抗は柔らぐ。たとえば再就職の道が見えれば人員の整理も進む。

 さて「創る改革」とは何か。創るべきは第1に新しい「公共」の担い手だ。これまで官が独占してきた仕事を担う企業、NPO、市民団体などを育てる。そのための制度は揃いつつある。NPOへの法人格賦与、PFI、指定管理者制度など民間が公務に参入する制度が充実しつつある。

 第2には改革への住民、あるいは受益者の参加である。たとえば郡部の自治体病院や公営バス。弱者の生活基盤であり非効率でも維持すべきだろう。だが行政には人材・資金がない。だとすれば住民が自ら出資、運営をする。地元企業やNPOもできる分野で手伝う。要は官と民、住民が話し合って共同で“公共”を分担する。

 財政危機が進行する一方で住民はよりきめの細かいサービスを求めている。官僚機構にはもはや対処不可能だ。真の課題は行政の仕事の多くを民間に移すと同時にサービスの質をいかに確保、向上させるかである。「創る改革」とはこの問題を解く作業であり、そこにおいてはこれまでの行政に代わる民の担い手の育成と住民、受益者の参画が鍵となる。

公共の再構成

 これからの行政改革は従来の民営化のような大雑把な上からの改革だけでは立ちゆかない。地域や分野の具体課題に即した行政の解体(壊すこと)と民間の担い手へのバトンタッチ、そして新たな意味での官民の連携と分担の再構築(創ること)が必要である。「創る改革」の過程で官と民、そして住民は本当の意味で対話し対等になり、そして成長する。そしてともに公共を再構築するのである。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』『ミュージアムが都市を再生する』ほか編著書多数。