「データセンターやサーバーの電力効率を上げなければ,環境対策の足を引っ張ることになる」――。こういったグリーンITの考え方は知っているが,そういわれても,現状で特に対策の必要性は感じない,という企業は少なくない。

 しかしそれは実態を把握していないだけなのではないか。実際には,サーバー室で大量に電力を浪費しているという可能性はないだろうか。

 便利な指標がある。「PUE(Power Usage Effectiveness)」と呼ばれるもので,データセンターやサーバー室のエネルギー効率を示す数値である。この指標を算出すれば,データセンターやサーバー室の規模を問わず,電力効率が高いか低いかがわかる。

 もしかしたら,貴社のサーバー室の電力効率は,大手ベンダーのデータセンターよりも高い可能性もある。逆に,もし電力効率が低いことがわかれば,自社が電力効率の向上に取り組むべきであることを自覚できる。

IBMの新型データセンターはPUEが1.8

 PUEの算出式そのものは,簡単だ。データセンターやサーバー室全体が消費した電力を,IT機器が消費した電力で割った値がそれである。後者のIT機器とは,サーバーやストレージだけでなく,管理用端末,ネットワーク機器,KVMスイッチなどが含まれる。前者のデータセンター全体の消費電力にはIT機器はもちろん,電源関連の装置,空調装置,照明装置などが含まれる。

 例えば,PUEが2.0の場合,サーバー室で消費した電力の半分がIT機器の消費電力であるということだ。1.0になると,そのサーバー室ではIT機器による電力消費しかないことになる。算出したPUEの値が小さければ小さいほど,IT機器以外,つまり空調機や電源装置による電力消費の割合が少ない。それだけ,IT機器を動かすための電力効率が高いというわけだ。

 一般に,電力効率が悪いデータセンターはPUEが3.0以上であるといわれている。一般的なデータセンターで,2.3~2.5程度。効率がよいとされるのは,2.0よりも低い数値の場合である。

 このPUE,データセンター設備のエネルギー効率を示す指標として一般化し始めている。米国の環境保護庁(EPA)が推奨していることもあり,IBMやHewlett-Packardなどのベンダーが採用を決めた。データセンターの電力効率向上を目的に設立された業界団体「The Green Grid」も,PUEの採用を推奨している。

 日本IBMは,2008年1月に稼働させた環境配慮型データセンター「幕張データセンター」のPUEは,約1.8であることを明かしている。サーバーやストレージが増加してもこの数値を維持できるよう対策を講じながら,国内の他のデータセンターもこの指標を目指して改善を進めるという。

まずは実態を数値で表す

 The Green Gridは同時に,「DCiE(Data Center Infrastructure Efficiency)」と呼ばれる指標も提案している。これは,PUEの値をパーセンテージ表記になおしたもの,と考えればわかりやすい。具体的には,1をPUEの値で割って,100をかけた数値だ。PUEが3.0であれば,DCiEは33%ということになる。

 これはPUEの「3.0」といった表記では,データセンターの中でIT機器が消費している電力の割合がわかりにくいという理由で考え出された指標である。「33%」なら,このデータセンターでは消費電力全体の33%がIT機器に供給されていることが一目でわかる。

 PUEが1.8なら,DCiEは55.6%となる。IBMの幕張データセンターは,全体の消費電力の半分以上をサーバーやストレージに供給する能力を持っているということだ。PUE3.0(=DCiE33%)のデータセンターと比較すると,電力効率の違いが実感できる。

 このように,電力効率や消費電力を考える上では,実態を数値化してみるとわかりやすい。その上で,グリーンITへの取り組みに力を入れるべきかを判断するとよいのではないか。

 多くの企業は,サーバー室やIT機器の消費電力を計測することから始めなくてはならないだろう。ざっくりとした数値でもよい。まずは,自社のデータセンターやサーバー室のPUEやDCiEを算出してみてはいかがだろうか。