Q: システム運用はITのスキルが上がらず不安。このまま続けていくべきでしょうか?

 私はクライアントのシステム運用を担当しております。仕事の大半はその場限りの問い合わせ対応とデータ調査です。いろいろな方と話をできるし,不具合の対応ができたときなど,楽しい仕事と感じています。しかし将来を考えると,ITのスキルが上がらないので不安です。このまま続けていくべきでしょうか?
(運用・管理/男性・35歳)

A:スペシャリスト,管理職,経営者という3つの軸でキャリアパスを考えろ

 30歳代なかばの年齢であれば,そろそろ自分のキャリアの方向性を考える時期ですね。今の仕事を長く続けるべきではないのでは,との疑問を持ち始めたのですから,ここはじっくりと考えましょう。

 この年齢でしたら,ソフト開発や設計,コンサルといったシステム運用よりも上流の分野,運用に関してもシステム管理やネットワーク管理といった様々な分野があることをご存知でしょう。まずはその中から,「将来何をしている自分が楽しそうか」を,3年先,5年先,10年先ぐらいでイメージしてみてください。これはスペシャリストとしてどの分野に進むべきかの選択肢です。

 また,同様に将来の自分が管理職になった姿もイメージしてみてください。これは管理職という選択肢です。最後に,将来独立して経営者になった時の自分をイメージしてみてください。これは経営者という選択肢です。「これだ!」というものがあれば,迷わず前に進むべきでしょう。

 このようにキャリアパスを考える際には,スペシャリスト,管理職,経営者という3つの軸で自分を見つめ直してみるとよいのです(図1)。

図1●スペシャリスト,管理職,経営者という3つの軸でキャリアパスを考える
図1●スペシャリスト,管理職,経営者という3つの軸でキャリアパスを考える

 ただし,管理職になるには上司や経営者の後押しがなければなりませんし,独立するには縁と運と度胸が必要です。

 私は,30歳代なかばころには,漠然と「将来独立したい」と考えていました。しかし,縁も度胸もなかったので,36歳でIBMからボストンコンサルティンググループに転職し,まずは独立に必要な能力を身につけることにしました。SEから,コンサルタントというスペシャリストの道をまず極めようとしたわけです。転職先で経営者となり,結局最初の転職から8年後に独立しました。

 このように,10年先のイメージを現実化するためには,一直線で進むだけではなく,ある程度の過程(紆余曲折)が効果的な場合もあるのです。

 当面,今の仕事とは別のスペシャリストの道を歩みたいのならば,会社の上司と相談して仕事を代えてもらうか,あるいは私のように転職するのもよいでしょう。

 大事なのは何かに向かって進むことで,最悪なのは疑問を持ったまま何もしないことです。幸いにもIT業界には豊富な選択肢がありますから,それを真剣に考えて行動しましょう。

Q: 協力会社の能力が低い人をフォローするのが限界。対処方法について悩んでいます。

 派遣である会社に行ってますが,私の会社経由で入っている協力会社の人で能力の低い人がいます。難易度の低い仕事しかできず,他の人が10の量をする時間で,4の量しかこなせません。それも,業務を知らない人が聞いてできるレベルまで詳細に説明しないと,できません(結局説明した人がやってあげている)。

 現場で問題になっている点は,周囲の人の時間を大量に奪っていることと,スケジュールがあふれた分は他の人がかぶっていることです。自分の会社からは「今のメンバーはくずすな」との命令が出ていますが,問題の人をフォローするのが限界になってきています。対処方法について悩んでいます。
(SE/男性・40歳)

A: 「やる気」があるなら,仕事を教えるのではなく「仕事の要領」を教えろ

 以前にも同様な質問がありましたが,あなたのケースでも,まずはその人がやる気も能力もない「ダメ人間」なのか,やる気はあるが能力がない「カラ回り人間」なのかが,判断のポイントです(図2)。

図2●「やる気」と「能力」による分類
図2●「やる気」と「能力」による分類

 明らかにダメ人間な場合は,いくら会社から「メンバーをくずすな」と命令が来ていても,断固として交代してもらうか,あるいはメンバーを追加してもらうべきです。会社としても,結果的にその仕事が回らなくなって大損害を被るよりは無理にでも交代させる方が得策なので,あなたはその点を徹底的に指摘すべきです。

 カラ回り人間の場合には,とりあえず我慢するしかないでしょう。そして,仕事を教えるのではなく,「仕事の要領」を教えましょう。「これはこうするんだ」ではなく,「こういう時はこんなやり方でやれば早くできる」と教えるのです。きっちりメモをとらせて,同じことを教えなくてよいようにすることも有効です。

 以前にも紹介しましたが,旧日本海軍山本五十六元帥の言葉に「やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,褒めてやらねば,人は動かじ」があります。あなたのケースでは,「言って聞かせて,やってみせ」で目前の仕事が片付いてしまい,そこまでで留まっているのかもしれません。人に仕事をさせるのは,それくらい大変なことなのです。同じ職場で仕事をしているのですから「これも何かの縁」と思って,頑張ってみてください。

 私も36歳でボストンコンサルティンググループに転職して1年間ぐらいは,この問題の人と同様に全く仕事ができず,周りに迷惑をかけ続けました。それでも周囲の方々のおかげで何とかここまでこられたのです。

 まずは,気持ちを大きく持ちましょう。もちろん「既に限界でそこまでする余裕は全くない」ということでしたら,交代か要員追加を会社に強行に要求するしかないでしょう。

奥井 規晶(おくい のりあき)
1959年神奈川県出身。84年に早稲田大学理工学部大学院修士課程修了。日本IBMでSEとして活躍後,ボストン コンサルティング グループに入社。戦略系コンサルタントとして事業/情報戦略,システム再構築,SCMなどのプロジェクトを多数経験。その後,アーサー・D・リトル(ジャパン)のディレクターおよび関連会社のシー・クエンシャル代表取締役を経て,2001年にベリングポイント(元KPMGコンサルティング)代表取締役に就任。2004年4月に独立。現在,インターフュージョンコンサルティング代表取締役会長。経済同友会会員,日本キューバ・シガー教育協会専務理事。