米MicrosoftのSteven Sinofsky氏(Windows開発の責任者)の机の上には,「Shipping Seven(7の出荷)」と名付けられた書類がある。筆者は,まだその書類を読んでいないし,コピーも持っていない。もちろん,Sinofsky氏にその書類を公開するつもりはないだろう。

 彼は,Microsoft幹部の中で最も用心深い人物の1人で,筆者(訳注:米Windows IT Pro MagazineのPaul Thurrott氏。Microsoftの内部情報に詳しいことで知られる)に対しても,取り立てて好感を抱いてはいない。Microsoftで大きな勢力を持つ「Office」グループをかつて担当していたSinofsky氏は,「やり手(つまり,製品を非常に厳格に管理された方法で予定通りに出荷する人物)」という評判を得ている。「Windows Vista」の完成が何年も遅れたことを考えると,彼がWindows開発のリーダーに選ばれたのは,当然のことといえる。

 筆者は,「Shipping Seven」を入手できないので,その代わりとして今回は,「Shipping Seven」よりも公平な視点から「Windows 7」(次期Windowsの通称)の開発について解説しようと思う。この連載記事は,現時点(2008年1月後半)で公開されているわずかな情報に基づいて書かれており,今後,新たな情報が公開されるたびに,更新される予定だ。

沈黙を貫くMicrosoft

 現在,Sinofsky氏とMicrosoftは,Windows 7に関して沈黙を貫いている。リークや積極的な情報公開が,結果として,「Vistaは前評判倒れ」という評価につながった前例があるためだ。Microsoftが今回目指しているのは,大げさな約束をせずに,約束以上のものを提供することである。彼らのそうした姿勢は理解できるが,情報というのは解放されることを望むものなのだ。

 私たちは,常に動いている標的を話題にしているのだから,情勢は絶えず変化するだろう。2008年が進行するにつれ,「Windows 7」についてもっと具体的な話ができるようになるだろう,と筆者は考えている。

情報が出るのはMIX,WinHEC,PDC

 「Windows 7」に関する最初の発表は,2008年3月上旬に開催される「MIX '08」カンファレンスで行われるはずだ。同カンファレンスで,Microsoftは「Internet Explorer (IE) 8」(「Windows 7」の主要コンポーネント)の計画を発表する予定である(現時点で最も正確な「IE 8」情報を知りたい方は,「Internet Explorer 8プレビュー」という筆者のブログ記事を参照のこと。同記事には,筆者が内部資料を使って作成した,内部設計のモックアップが含まれている)。

 Microsoftはその後,「Windows Hardware Engineering Conference (WinHEC) 2008」で,Windows 7のロー・レベルな詳細を明らかにするはずだ(同カンファレンスの開催時期は,通常の春から「2008年の秋」に変更された。同社の「Windows 7」開発スケジュールと歩調を合わせるためだろう)。MicrosoftはWinHEC 2008で,WindowsとPCコンピューティングの未来に対する同社のビジョンを明らかにすると公に認めている。

 最後に,Microsoftは2008年10月後半にも,別の「Professional Developers Conference (PDC)」を開催予定である。Windowsのファンの方なら,未来のWindowsバージョンの出発点として,PDCがよく利用されることをご存知だろう。そして,今年のショーが,Windows 7の出発点としての役割を果たすことは間違いない。

出荷時期は?

 もちろん,それ以降のことは,はっきりしない。Microsoftは2009年後半までに「Windows 7」を出荷する予定だ,といううわさもある。これは,当初の予定より1年近くも早い。このうわさが本当かどうかは分からないが,筆者は次のように考えている。

 Microsoftは以前,2010年中に「Windows 7」を出荷すると話した。もちろん,同社が実際にその予定通りにことを運ぶと思った者は,ほとんどいなかった。同社が2009年後半(Vista発売からたったの3年後)に何とかWindows 7を出荷したとしても,それは,メジャーなアーキテクチャ上の変更がほとんどない,比較的マイナーなアップデートになるだろう。

 それは本質的に,Vista Release 2 (R2)のようなもの,あるいはWindows 2000からXPへの変化に若干似たものになるだろう。率直に言って,Sinofsky氏と「Microsoft Office」の歴史を考えると,そのような帰結は意外なことではないはずだ。しかし,私たちは成り行きを見守るしかないのである。現在,関係者の間で流通しているWindows 7のビルドに,メジャーな変化を示す兆候はないといわれている。とは言っても,これまで上手くいったものはすべて,最初はそういう状態だったのだ。

MicrosoftはこうしてWindowsを作る

 筆者は過去に,様々なバージョンのWindowsの開発について,多くの記事を書いた。そして,それらの記事では,同社が別々の技術の断片をつなぎ合わせて,最終的に,一般の人々がテストし,使用できる1つの製品を作り上げる過程に重点を置いた。このプロセスは時間とともに変化するうえ,Windowsバージョンによっても異なるが,「Windows 7」に適用される同プロセスについて,大まかに解説することくらいは可能だろう。

 広範な外部ベータ開始前のMicrosoftのWindows開発スケジュールには,様々な内部マイルストーン・ビルド(「M」と呼ばれる)が付き物である。これらのビルド(通常はM1,M2,M3などと呼ばれる)は,多くの場合,Microsoft内の限られたグループと選ばれたパートナーのみに提供されるという意味で,内部ビルドなのだ。

 パートナーは,この開発段階ではまだ流動的なロー・レベルのOS機能について,コードやフィードバックを提供する。どのバージョンのWindowsでも,最初のマイルストーンがリリースされるのは,通常,製品の製造工程向けリリース(RTM)の2~3年前だ。そして,これらのビルドは,一般の人々がよく目にするベータやリリース候補(RC)ビルドよりも前に登場する。通常,マイルストーン・ビルドを見ても,最終的な製品のことはあまり分からない。なぜなら,この段階における変化の大半は,ロー・レベル,あるいは実験的なものだからだ。

 Vistaの最終的なリリースの数年前に登場した,「Longhorn」というマイルストーン・ビルドのことを思い出してほしい。Microsoftは,「Windows 7」で同じようにスケジュールが延び延びになることを,必死で避けようとしているのだ。Longhornの主要なアルファ・ビルドの1つである「ビルド3683」は,「Windows XP」に似ていたが,エクスプローラでディスク・スペースを表す「燃料計」や統合された検索機能など,Vistaの最終バージョンで出荷されることになるいくつかのUIコンポーネントを搭載していた。しかし,変化の大半は,ユーザーの目に見えない内部で起こっていたのである。

 当時Microsoftは,「WinFS」ストレージ・エンジン(最終的に,製品から削除された)や「Avalon」ディスプレイ・エンジン(「Windows Presentation Foundation(WPF)」として出荷された),システム全体を対象とする通知スキーム(これも後に削除された)などをテストしていたのだ。後のマイルストーン・ビルドは,Vistaのセットアップ・エンジンや様々なUIスキーム,新しいVistaのシェルなどのデビューの場となった。

 それでは,このことは,「Windows 7」とどのような関係があるのだろうか? そして,Microsoftの次期Windowsは,今どういう状態にあるのだろうか?