2008年2月1日金曜日,米Microsoftはオンラインの巨人である米Yahoo!に対し,446億ドルでの買収を提案したと突然発表した。筆者は預言者ではないが,長年に渡りMicrosoftやYahoo!の動向を見守り続けている。その観点から,筆者(米国Windows IT Pro MagazineのPaul Thurrott氏)が考える重要な点ポイントを挙げてみよう。

 まず今回の一件は,明らかに敵対的買収提案である。MicrosoftのYahoo!に対する提案は,Yahoo!の経営幹部への明示的・暗示的な脅しであろう。なぜならこの取引は,すぐにその提案を受け入れないとYahoo!の株主が怒り出すような内容だからだ。

 MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は木曜日,Yahoo!の取締役会に書簡を送付し,この提案と書簡は24時間後に一般公開される旨を通知した。このようにして,MicrosoftはYahoo!の幹部に考える隙を与えずに決断を迫り,Yahoo!はこの提案に対してすぐさま正式な回答を示すよう迫られた。しかし,筆者が思うに,ドット・コム・バブルの崩壊で痛手を受けた株主たちは,ゴッド・ファーザーのようなMicrosoftからの提案の受け入れを強く望んでいるだろう。

Microsoftの手法が通用しなくなった理由

 Googleは新しいタイプのライバルであり,これまでとは異なる対処が必要である。長年,Microsoftの創業者と経営幹部は「次のIBMにはならない」と表明してきたにもかかわらず,今日のMicrosoftは,1980年代初頭の,つまり鈍重なIBMにそっくりだ。過去にうまく行っていたこと,例えば,新しい世界秩序を手に入れた新興ライバルのNetscapeを打ち負かすために,Netscapeを模したブラウザであるInternet Explorerを作成し,市場を独占しているデスクトップOS製品であるWindowsにそれを組み込むというような手法は,今日ではもはや有効ではない。

 Microsoftの手法が通用しなくなったのには複雑な理由があるが,大きく2つの点に要約できる。1点目は,Microsoftに今日のPC市場での成功をもたらしたネットワークによるスケール・メリットを,Googleも享受できるようになったことだ。Googleの独占的な製品が,他に比べて圧倒的に優れているわけではない。しかし,それらが広く使用されるようになり,オンラインのトラフィックを作り出すと,広告主にとっての価値が高まり,Googleの検索結果がより広告対象に関連するようになるため,システム自体の価値もさらに高まる。こうして,システムは自然に大きくなっていく (偶然かもしれないが,Windowsを成功に導いたネットワークの効果を,Microsoftは,ビデオ・ゲーム,携帯電話,デジタル・メディアなどの他のマーケットでも再現しようとし,ことごとく失敗したのは皮肉である)。

 2点目として挙げられるのは,PC市場で苦労してきた米Appleは嫌というほど分かっているだろうが,どんなに成功していても,製品が良くても,市場を掌握している守りの堅い巨大企業に打ち勝つのはほぼ不可能である,ということだ。Googleは,Microsoftが対抗できない,または自力では追い付けないほどの規模に成長したということだ。

大人になったMicrosoftの苦悩

 この状況を打開するために,Microsoftは積極的に攻め始めた。MicrosoftのYahoo!に対するアグレッシブな提案が,Microsoftの方針転換の始まりなのか,または苦闘する恐竜の終焉を告げる弔鐘なのかを判断するのは,時期尚早である。

 Microsoftは過去に多くの批判を受けてきたが,同社は会社の価値を高める責任を株主に対して常に負っていた。Microsoftは,同社の顧客やマーケットシェア,収益をうかがうライバル会社を打ち負かすことによって,株主への責任を果たしてきた。Microsoftの経営陣がライバルの息の根を止めようとする行為は,その手段が違法でない限り,株主にとって必ずしも悪いことではない。逆にそのような姿勢こそ,株主が経営者に求めるものであろう。

 しかしそうはいっても,過去10年間に世界中で起きた独占禁止法関連の問題で,Microsoftは明らかに謙虚になった。そして,かつての同社の姿からは想像もできないおかしな行動を取るようになり,会社としての切れ味を無くし,株主を裏切るようになった。

 例を出して考えてみよう。Microsoftは,ライバルがMicrosoftのワークグループ・サーバー製品と相互運用できるようにするための技術資料の公開交渉に,(今のところ)5年もかけている。その反面,Windows Vistaの追加機能に関しては,ライバルが要求したあらゆる変更に,すぐさま対処しようとしている。

 考えてもらいたい。一方には独占状態にはない製品(Windows Server)と相互運用したいライバルがいる。もう一方には,最も独占状態にある製品(Windows OS)を弱体化したいライバルがいる。なぜかMicrosoftは,前者を妨げようと奮闘し,後者には何も言わず従っているのだ。筆者がMicrosoftの株主だったら,怒り狂うだろう。Windows VistaはMicrosoftの競合会社の要望に屈してしまっているし,SP1のリリースによってさらに屈することになるだろう。

 今回のYahoo!に対する敵対的買収提案は,Microsoftがもう一度,さらに攻撃的になる準備があるということ表している。そして,Microsoft製品のユーザーや,Microsoftに依存している多くの人々にとって,この動きは悪くないことであろう。

これこそがSteve Ballmer氏のMicrosoft

 経営者のパーソナリティを考えると,今回のような行動こそが,Steve Ballmer氏のMicrosoftであると言える。もちろん,Steve Ballmer氏がCEOになって8年たつが,彼は常に,先代のCEOであり,ハーバード大学の友人であるBill Gates氏の影に隠れていた。Gates氏がYahoo!の買収に賛成していることが明らかであるが,この取引は,Ballmer氏の攻撃性によるものである。

 Ballmer氏は戦う男であり,勝利のためには手段を選ばない。また,Yahoo!の買収提案は,過去の失敗を認め,今後の戦略を示すものである。この買収提案に関する資料,Yahoo!への書簡,また,金曜日に行われた報道陣向けの電話会見で,Microsoftが決して「Google」という言葉を使わないのは興味深い。これは明らかにBallmer氏の意思が働いているのだ。