2008年の第1弾として,日本能率協会から『絵でみる キャッシュフローのしくみ』を上梓(じょうし)しました。本書の前半でキャッシュフロー計算書の構造を紹介し,後半では営業活動・投資活動・財務活動の各キャッシュフローの特徴を解説しています。

 営業活動キャッシュフローには拙著『戦略会計入門』のエッセンスを絡め,投資活動と財務活動の各キャッシュフローにはファイナンスの入門レベルを加味しました。また,キャッシュフロー計算書の作成方法としては直接法と間接法があり,一般には間接法で作成するのが簡便だといわれていますが,それはウソです。直接法と間接法を同時並行で作成するほうが,実は早く完成します。そのカラクリも盛り込みました。

 さて,筆者が書籍を執筆するにあたって常に心掛けているのは「なぜ」を追求することです。今回の『キャッシュフローのしくみ』も同様のスタンスで臨みました。たとえば,今回取り上げた「なぜ」の例を一部には,以下のようなものがあります。

・キャッシュフロー計算書の冒頭は,なぜ,税引後の「当期純利益」ではなく「税引前当期純利益」で始まるのか
・「営業活動によるキャッシュフロー」には,なぜ,「小計」の項目があるのか
・「営業活動によるキャッシュフロー」には,なぜ,受取利息と支払利息が2回も登場するのか

法定実効税率と法人税を混同しないで

 現代の企業経営には,キャッシュフローの概念が必要不可欠とされています。そのキャッシュフローを学ぶにあたって,避けることのできないのがキャッシュフロー計算書です。

 ところが,こいつが難しい。

 損益計算書であれば,各項目が川上(売上高)から川下(当期純利益)へ流れるので,その流れに身を任せていれば何となく理解できます。ところが,キャッシュフロー計算書は,税引前当期純利益からスタートします。しかも,なぜ,「税引後」ではなく「税引前」の当期純利益なのか。誰もがキャッシュフローの重要性を認識していながら,すぐに挫折してしまう要因が,キャッシュフロー計算書の冒頭に鎮座しています。

 結局,「なぜ」を理解せずに突き進もうとするから,誤用も多くなります。その典型的な例が,キャッシュフロー会計やファイナンス理論で重要な位置を占める「法定実効税率」でしょう。これを「法人税率」と混同したり,法定「実行」税率と思っていたりする人がいるのは,まぁ,ご愛敬。法定実効税率を,図1の式で理解している人がいれば,まずまずです(注1)

図1●法定実効税率の式
図1●法定実効税率の式

 国の予算編成の季節に新聞記事などを読んでいると,1週間に一度は「ニッポン企業の税負担率は4割であり,諸外国に比べて高すぎる」という記述に出くわします。その根拠は図1の式で求めた40.87%という数値にあります。

 なぜ,図1のような式になるかについては,拙著『絵でみる キャッシュフローのしくみ』で詳しく説明していますが,ここでは各税率の根拠条文を紹介しておきます。税法の条文を知らずに,法定実効税率を語っている人が意外と多いものですから。

(1) 法人税率:0.30(30%)……法人税法66条
(2) 住民税率:0.173(17.3%)
 ……地方税法51条1項により道府県民税は5%
   同法314条の4より市町村民税は12.3%
   合わせて17.3%
(3) 事業税率:0.096(9.6%)……地方税法72条の24の7第1項3号

 税制改正によって各税率が変更された場合は,図1の式に新しい税率を代入して,法定実効税率を求め直すことになります。

 さて,入門編といいながらキャッシュフローという言葉に堅さがあることから,『絵でみる キャッシュフローのしくみ』では新進気鋭のイラストレーター「草田みかん」さんを指名させていただきました。彼女のイラストを初めて見たとき,筆者には理解が及びませんでした。しかし,時間をおいて改めて見たとき「これは,すごい才能だ」と感じ入りました。フランス語で表現するならば“surréalisme”(シュールレアリスム)の世界。見た目で人を笑わせる才能が羨(うらや)ましい。

(注1)法定実効税率の式については,日本公認会計士協会『個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針』17項もご確認ください


→「ITを経営に役立てるコスト管理入門」の一覧へ

■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/