宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報通信研究機構(NICT)は,インターネット衛星「きずな」を共同開発した。2008年2月15日に打ち上げる。実証実験を通じて,衛星では最高速クラスの1Gビット/秒を超える通信機能などを検証し,災害対策や情報格差解消への有効性を確認していく。

 実証衛星のきずなは,H-IIAロケットを使って打ち上げられたあと赤道上空に位置し,5年間にわたって実証実験を繰り返す(写真1)。従来の衛星には見られない機能を複数備えており,「高速,カバー範囲の広さ,柔軟な通信回路の設定」を実現している(図1)。

図1●インターネット衛星「きずな」の特徴と実験を通じて実証が期待されるポイント
図1●インターネット衛星「きずな」の特徴と実験を通じて実証が期待されるポイント

写真1●2008年2月15日に打ち上げ予定のインターネット衛星「きずな」
写真1●2008年2月15日に打ち上げ予定のインターネット衛星「きずな」
2007年12月21日に鹿児島県の「種子島宇宙センター」でメディア向けに公開した。左側が本体,右側の黒い部分が太陽電池パネル。
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衛星でギガビット超えは初

 きずなの特徴としてまず挙げられるのは伝送帯域。地上にいるユーザーは,直径45センチのアンテナの時は送信が1.5Mビット/秒で受信が155Mビット/秒,直径5メートルのアンテナでは送受信ともに1.2G/ビットで通信できる。「商用の衛星は数M~数十Mビット/秒が主流。きずなは世界最高速といえる」(JAXA衛星利用推進センターの山田和晴主幹開発員)。

 衛星側は2種類のアンテナを搭載しており,国内を含む東~東南アジア地域とアジア太平洋地域をカバーする。通信に使う20G~30GHzの「Ka帯」は降雨に弱いため,衛星側で電波の強さを高める機能も備えている。

 様々なアプリケーションの利用を前提とした通信機能も持つ。例えば,ATM(非同期転送モード)のセルをコピーして一斉送信するマルチキャストなどが可能だ。従来の衛星は,送られてきた電波信号を違う周波数で送り返す中継にとどまっていたが,きずなはATM交換機を搭載したことで,従来にはない衛星通信を可能にした。

災害対応や情報格差解消を検証

 これだけの機能を備えるきずなに期待されるのは,「離島や山間部など高速ネットワークを使えない場所での通信手段になること,そして災害時にも衛星が使えること」(山田主幹開発員)。実験ではデジタルデバイド対策と災害対策への有効性を検証する。

 打ち上げ後,JAXAとNICTは基本的な通信性能を試す「基本実験」を進めていく。テーマとしては,「地上網と結びバックボーン回線を補完」,「アジア各地の防災管理機関に災害情報を配信」,「ハイビジョンを伝送」,「小笠原にブロードバンド環境を構築」,「日本と東南アジアを結ぶEラーニング」などが並ぶ。

 基本実験から少し遅れて,様々な用途での利用を試す「利用実験」も開始する。こちらのテーマは総務省が昨年公募し,国内外から応募があった53件を実験する。

超高速インターネット衛星「きずな」が打ち上げ延期