携帯電話利用者は,音の良さにあまりこだわっていないようだ---。そんな調査の結果を見ることがあり,私はちょっと驚いた。どれだけの時間や頻度で通話するかはいざ知らず,携帯電話も“電話”の一種。みんな通話の音質はある程度気にしているものだと思っていたからだ。

 その調査結果を見たのは,1月に行われたウィルコムの新機種発表会の席上でのこと。一般の携帯電話ユーザーに対して,ウィルコムのサービスや料金プランのメッセージがどのように届いているかを調べた調査である。項目としては,「ウィルコム同士の通話無料」「メール送受信無料」「パケット料金が割安」「ウィルコム以外へも通話料が安い」「音が良い」「低電磁波」があり,それぞれに「魅力的である」と,(ウィルコムのサービスや料金としてその特徴を)「知っている」の回答者の割合を示していた。

 ざっくりとした数値を紹介すると,「ウィルコム同士の通話無料」「メール送受信無料」「パケット料金が割安」の3項目は,50%前後の人が「魅力である」と回答している。それに対して,残る「ウィルコム以外へも通話料が安い」「音が良い」「低電磁波」の3項目は,30%程度の人が「魅力である」と回答するにとどまっている。

 「魅力である」と回答した人の比率は,携帯電話ユーザーのサービスや料金への考え方を大まかに示しているとみてもいいだろう。そうすると,音が良いということに対して強く関心を持っているのは,携帯電話ユーザーの3割程度だけということになる。

確かに昔よりは音は良くなったけれど…

 個人的には,携帯電話の音は決して「良い」とは思っていない。第2世代(2G)携帯電話の時代にPDCハーフレートといった,とてもデータ量を倹約して音声を送っていたことがあり,その時の音は聞くに堪えなかった。誰が話しているのか,分からない有様だったのだ。それに比べると,今の3G携帯電話の音はかなりマシになった。多くの場合で相手が誰だかは判別できるレベルではある。

 それでも,と思う。ウィルコムに肩入れする訳ではないが,PHSは携帯電話よりも音声通話の帯域が広く,符号化方式も根本が異なっている。携帯電話と比べると,「良い音」と感じる人が多いはずだ。携帯電話でも,せめてPHS並みの音質が実現できればいいのにと。ここで,前述の“ユーザーの意向”が気になる。音質は2の次,3の次という調査結果である。「携帯電話の音はこんなもの」「とりあえず話せるからいい」といった受け止め方をしていると感じてしまう。

 最近,私はPHSと携帯電話の双方を使い分けて通話している。そうすると,携帯電話のほうが音を聞き取りにくく,そのためか話すときに大きな声を出していることに気付いた。電車内や人が集まった場所で,携帯電話の話し声が耳に付くことはとても多い。マナーの問題にすり替えられているが,自分の経験からすると「音が悪いから大きな声を出さざるを得ない」のではないかと思える。

 携帯電話の世界は日進月歩で,例えばデータ通信速度は格段に高速化している。一方で,3G携帯電話の登場以降に音声通話でブレークスルーがあったという話を耳にしたことはない。携帯電話も「電話」なのだから,技術の進歩の恩恵を少しでも音声の品質に割り当てて欲しいし,いい音で楽に通話ができることは重要なことだと思う。そうすれば,通話はより自然な話し声になり通話の迷惑度合いが下がるかもしれない。「音が良い」ことが当たり前になるぐらい,携帯電話の音が聞きやすくなったらいいな---。冬の一日,調査結果を見て,そんな思いを深くした。