国内最速となるモバイル・データ通信サービスが登場した。イー・モバイルは2007年12月に伝送速度が下り最大7.2Mビット/秒のデータ通信サービスを開始。従来の最大3.6Mビット/秒のサービスからどれくらい速くなっているのか。7.2Mビット/秒対応のデータ通信端末「D02HW」を使い実効速度を検証した。

 イー・モバイルは2007年12月,国内のHSDPA(high speed downlink packet access)サービスとしては初めて下り最大7.2Mビット/秒の伝送速度に対応したサービスを開始した。HSDPAサービスはNTTドコモとソフトバンクモバイルも提供中だが,両社のサービスは今のところ下り最大3.6Mビット/秒の伝送速度にとどまる。

 2007年12月のサービス開始時点で7.2Mビット/秒に対応する端末は,中国ファーウエイ・テクノロジーズ製のUSB接続型データ通信端末「D02HW」の1機種のみ。従来の端末では7.2Mビット/秒のサービスを受けられないため,既存ユーザーは新たに対応端末の買い増しが必要になる。

 7.2Mビット/秒のサービスを提供するには基地局側の対応も必要となる。当初は同社が展開しているエリアの中から首都圏,名古屋,京阪神,札幌,仙台,広島,福岡など人口密度の高い場所から対応する計画である。

 伝送速度が上がっても料金は従来と同じ。月額5980円の定額サービス「データプラン」や,データ転送量に応じた2段階料金制である「ライトデータプラン」などが利用できる。継続利用契約などの割引サービスを組み合わせると,月額2480円からサービスを受けることが可能だ。上り最大伝送速度は384kビット/秒で従来と変わらない。

場所と時間による差が大きい

 今回検証したのは,7.2Mビット/秒に対応したD02HWと,従来機である3.6Mビット/秒対応のD01HWの2機種(写真1)。本体の色合いが若干違う以外は,サイズも重さもまったく同じである。

写真1●下り最大7.2Mビット/秒に対応した「D02HW」(右)と,下り最大3.6Mビット/秒対応の「D01HW」(左)
写真1●下り最大7.2Mビット/秒に対応した「D02HW」(右)と,下り最大3.6Mビット/秒対応の「D01HW」(左)
両機種の外観はほとんど変わらない。D02HWの価格は,料金プランとして1年契約型の「いちねん」または2年契約型の「新にねん」を選んだ場合は9980円(イー・モバイルのオンライン・ストアで購入した場合)。WindowsおよびMac OS Xに対応する。
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 速度測定は,本誌2007年5月15日号や2007年11月1日号で計測した方法に合わせて,新宿西口付近,六本木の東京ミッドタウン,東京駅丸の内口(以下丸の内)の3カ所で実施。1Mバイトのファイルをインターネット接続事業者であるDTI(ドリーム・トレイン・インターネット)のFTPサイトにアップロード/ダウンロードする際の速度を昼夜に分けて測定した(表1)。

表1●イー・モバイルのデータ通信カードで実効速度を測定した結果
1Mバイトのファイルをダウンロード/アップロードして実効速度を測定し,4回の平均値を算出した。測定は2007年12月20日,21日および25日(いずれも平日)に実施した。
端末名 D02HW D01HW (参考)D01NE
最大伝送速度 7.2Mビット/秒 3.6Mビット/秒 3.6Mビット/秒
新宿西口 昼間 下り 1225kビット/秒 1211kビット/秒 1813kビット/秒
上り 313kビット/秒 309kビット/秒 271kビット/秒
夜間 下り 2297kビット/秒 1230kビット/秒 1962kビット/秒
上り 334kビット/秒 353kビット/秒 323kビット/秒
昼夜平均 下り 1761kビット/秒 1220kビット/秒 1885kビット/秒
上り 323kビット/秒 331kビット/秒 294kビット/秒
六本木 昼間 下り 1946kビット/秒 1456kビット/秒 1935kビット/秒
上り 102kビット/秒 240kビット/秒 323kビット/秒
夜間 下り 1822kビット/秒 1395kビット/秒 1791kビット/秒
上り 337kビット/秒 330kビット/秒 326kビット/秒
昼夜平均 下り 1884kビット/秒 1426kビット/秒 1861kビット/秒
上り 220kビット/秒 285kビット/秒 325kビット/秒
東京駅丸の内口 昼間 下り 642kビット/秒 615kビット/秒 936kビット/秒
上り 304kビット/秒 289kビット/秒 323kビット/秒
夜間 下り 1233kビット/秒 1062kビット/秒 1174kビット/秒
上り 324kビット/秒 309kビット/秒 327kビット/秒
昼夜平均 下り 937kビット/秒 839kビット/秒 1042kビット/秒
上り 314kビット/秒 299kビット/秒 325kビット/秒
*1:2007年5月の測定値

 結果はD02HWが新宿西口で,D01HWの2倍近い速度となる約2.3Mビット/秒を記録するなど,すべての測定地点と時間帯において,D01HWの下り速度を上回った。

 通常のWebサイトの表示では両機種の違いはあまり体感できなかったが,例えば地図サイト上で位置の移動に伴って再描画される際など,D02HWの方が速いことを実感できた。

 ただし7.2Mビット/秒対応機と3.6Mビット/秒対応機の違い以上に,場所や時間帯によって速度の差が大きく出ることが判明した。

 例えば丸の内では,昼夜平均で下り937kビット/秒程度しか出なかったのに対し,六本木では昼夜平均下り1884kビット/秒と,2倍以上の速さを記録した。また,時間帯による違いでは,新宿西口と丸の内は夜間の方が昼間の2倍近く速かった。

 一般に無線通信は,電波の状況や同時利用ユーザー数で実効速度が大きく変わる。イー・モバイルによると,「同時に多くのユーザーが使用しているエリアがあれば実効速度は低下する。時間帯によって速度に違いが出るのはこのため」と説明する。新宿と丸の内に関しては,日中に利用していたユーザーが多かったからだと考えられる。「新宿西口には大手量販店があり,店頭でイー・モバイル端末のデモを実施している。その関係上,店舗の営業時間内は実効速度が落ちる傾向にある」(同)。

 測定場所による違いについては,「場所ごとに電波の飛び方には違いが出る。そのため実効速度に差が出る可能性がある」とイー・モバイルは説明。実効速度がふるわなかった丸の内は,ビル群が立ち並んでいる影響もあり,電波の伝搬が他の測定場所よりも悪かったことが考えられる。

加入者数急増が実効速度に影響

 同社の加入者数が増えたことによって,以前に比べて全体的に実効速度が低下していることも判明した。

 今回の7.2Mビット/秒対応機の計測結果を見ると,2007年5月上旬時点の3.6Mビット/秒対応機の実効速度とほぼ同じになっている。ネットワークは高速化したものの,加入者数の増加などによる影響があり,伝送速度のアップ分が相殺された格好だ。

 本誌が2007年5月上旬に同社の3.6Mビット/秒対応データ通信カード「D01NE」をテストした時は,900k~1.9Mビット/秒近い下り実効速度を記録した(表1右段)。しかし,今回検証した3.6Mビット/秒対応機の下り実効速度は,600k~1.4Mビット/秒にとどまった(表1中段)。

 同社の加入者数は2007年4月末時点で約3万だったが,2007年11月中旬には16万超と5倍以上に増えた。イー・モバイルは「固定のブロードバンド回線代わりに利用する加入者も増えている。加入者数増加の影響による速度低下は確かにある」という。

 パソコン向け定額通信サービスはNTTドコモやKDDIも開始しているが,利用に制約があることや料金面・速度面で,イー・モバイルのサービスの方が割安感がある。ただし,今後同社の加入者数がさらに増えれば,実効速度が今以上に低下することもあり得る。イー・モバイルは,「エリアごとのトラフィックを見ながら,随時基地局を増強し,安定した通信サービスを提供していきたい」と説明する。

CD-ROM不要のセットアップが便利

 なおD02HWは,外観こそD01HWとほとんど変わらないものの,便利な機能が新たに加わった。パソコンにD02HW本体を接続するだけで,ドライバーや接続ソフトが自動的にインストールされる機能だ(写真2)。D02HWは,ソフト類を保存したストレージを本体に内蔵している。それがパソコン接続時にマウントされ,インストーラが自動起動する。

写真2●DO2HWをパソコンに接続するとドライバーなどが自動インストールされる
写真2●DO2HWをパソコンに接続するとドライバーなどが自動インストールされる

 本体に光学ドライブを内蔵しないモバイル用ノート・パソコンは多い。CD-ROMを使わずにドライバーや接続ソフトをインストールできるこの機能は重宝しそうだ。