イーバンク銀行の佐藤昌弘・取締役サービス戦略本部長兼Chief Information Officer(CIO)
イーバンク銀行の佐藤昌弘・取締役サービス戦略本部長兼Chief Information Officer(CIO)

 ネット専業銀行大手のイーバンク銀行(東京・千代田区)は、同業の先駆けとして2001年7月に開業。順調に成長を続け、2007年末に約253万口座、預金残高は年初の1.6倍の約7000億円に達した。大手銀行に比べて有利な金利、電子マネーや競馬の馬券購入・払い戻しなど外部サービスと連携したユニークなサービスを続々と打ち出して顧客を獲得している。

 ただし、2007年9月に住信SBIネット銀行(東京・港区)が立ち上がるなど銀行業への新規参入は相次いでおり、競争は激化している。それだけに、取締役サービス戦略本部長兼Chief Information Officer(CIO、最高情報責任者)を務める佐藤昌弘氏の最も重要な役割は、常に新規サービスを投入し続けることだ。「先進性を失えば、生き残ることは難しい」と佐藤氏は気を引き締める。

 佐藤氏は、大手建設会社の情報システム部門出身。創業当初からイーバンク銀行のシステムにかかわってきた。「建設会社では決済処理が遅れると中小の取引先の倒産につながることがある」という厳しい経験が今に生きているという。

VISAデビット付きの「イーバンクマネーカード」
VISAデビット付きの「イーバンクマネーカード」

 最近取り組んだ大型システム開発案件は「VISAデビット」導入だ。これは、過剰貸付けの抑制などを狙った貸金業法が2006年12月に公布されたことに俊敏に対応したものだ。同法によって、クレジットカードを持てない人が今後は増えることが予想されている。そこで、2007年6月にVISAデビットを搭載した「イーバンクマネーカード」の発行を開始した。VISA加盟店で使えるが、後払いではなく、イーバンク銀行の口座から即時に引き落とされることがクレジットカードとの違いだ。国内ではVISAデビット搭載カードを発行している金融機関はまだ少なく、先行者の優位性を発揮し、発行開始2カ月で50万枚を突破した。

 イーバンク銀行は特定の大株主を持たず、独立色が強い。それは資本力や政治力の弱さを意味するが、裏返せば外部のサービスと柔軟に連携できる強みがある。「かゆいところに手が届くシステムは作らず機能自体は極力削る。外部のサービスと柔軟に連携できるシステム構造を維持し続けることが競争力になる」と佐藤氏はIT戦略を語る。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・現状のリスク・課題を常に認識して、トップの判断を誤らせないように正しい情報を伝えることを心がけています。特にシステム障害については、金融庁への報告が必要になることもあり、正確な情報を伝えなければいけません。

・自分の立場ではなく、会社にとって何が大切かを考えます。トップから少々困難な要望があっても、自己防衛するのではなく、まずは前向きに話を聞きます。そのうえで、何が良いのかを自分で考えます。

・自分が常に技術の勉強をしておく必要があります。例えば、トップから「(ハードディスクを使わない)オンメモリーデータベース技術はどうか」と聞かれることがあります。その時は、「データ消失リスクが大きく、コスト高にもなる」と説明しました。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・ITベンダーの技術力が低下しています。現場を理解しつつ、技術的に困難なことを実現する前向きな力があるとありがたいです。コンサルタントではないのだから、技術的に実現できないと意味がありません。力のある技術者がベンダーの社内できちんと評価されるようになってほしいと思います。

・ITベンダーが保守的になり、フットワークが重くなっていると感じます。少し変わったことをやろうとすると、「コンプライアンス(法令順守)に引っかかる」などといわれてしまいます。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・社内で回覧されるものに幅広く目を通します。金融機関の役員として、金融業界向けの新聞・雑誌も読みます。
・『オープン・エンタープライズ・マガジン』(月刊、2007年12月発売号からPDFによるデジタル版のみ販売、ソキウス・ジャパン)は技術だけではなく経営的なことも載っていて参考になります。

◆最近読んだお勧めの本
・『「まずい!!」学-組織はこうしてウソをつく』(樋口晴彦著、祥伝社新書)は、企業や組織が不正などをいかに隠ぺいするか、かなり辛らつに書いてあります。自分も「隠ぺい体質」になってはいけないと思わされました。

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
・金融相場情報・チャートはよく見ます。
・特に決まったサイトを見るよりは、興味があることを幅広く検索エンジンで調べます。

◆ストレス解消法
・ちょっと遠くに出かけます。温泉が好き。
・会社の前に日比谷公園があり、広い場所で青い空を眺めていると落ち着きます。