2008年1月24日,25日と日本経済新聞が報じた年金に関する記事を読んでいた(編集注:執筆時は1月25日)。さらに,ITproから発行されている無料の紙メディア,「ITpro Magazine」創刊号に掲載された,社会保険オンラインシステムに関する記者対談にもざっと目を通した。

 多くの人々が,年金制度を運営するために必要な情報通信システムに,多くの問題があると認識している。そのことは,十分に理解できた。ただ,それでも,ここのところ進む多くの議論や論評,意見表明などに何か釈然としない印象を抱き続けてきた。この2週間ほど,何が釈然としないのかを考え続けてきた。そして一応の結論に達した。

年金問題は3つの分野に分かれる

 広い意味での年金問題は,3つの分野に腑(ふ)分けできる。

 1つは制度設計問題だ。年金制度を持続的な制度とするためには,何をどうするべきか。そのための問題点の抽出と議論の展開,そして新制度の設計と移行というような内容だ。この分野のわかりやすい解説としては2007年6月,nikkei BPnetに連載された「インタビュー・どうする年金問題」(http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/cover/nenkin1/)がある。

 2つ目は,現在遅々として進まない印象が強い年金記録問題だ。この年金記録問題は,制度設計問題と同列に論議できる性格のモノではない。年金記録問題はあくまでも社会保険庁が過去に引き起こし,2007年に発覚した運営上の過誤なのだ。そして3つ目が,年金制度運営のために必要とされる情報通信システムである。これらをひとまとめにして議論したり論評したりするから問題がややこしくなると気付いた。

 本稿は,2つ目の問題,年金記録問題の解決・解消に情報通信システムをどのように駆使しできそうかを提示する。年金制度運営のために必要とされる情報通信システム全体の論評を試みるものではない。

 年金記録問題は,具体的かつ可視的に解決しないと,国民と年金受給者の了承を得られない。また,年金制度への信頼,ひいては政府への信頼の回復に寄与できる方策を施行する必要があるとも考える。その意味で,年金記録問題という過誤をひた隠しにしてきた社保庁という組織が,自らの過誤を質すとして年金記録問題解決の方策を企画・実施することには,心情的な違和感を覚える。年金問題の原因を究明するために設置された年金記録問題検証委員会が,責任の所在を具体的に言及しなかったことも,尾を引いている。

 年金問題は,よほど英知を集結して事に当たらないと,国民と年金受給者を納得させるような解決は難しいと思える。

 社保庁の言動に関する報道を繋ぎ合わせて,年金記録問題の解決に役立ちそうな私の知見とアイディアを一通り提供する。また,読者の方から寄せられた提言やアイディアにもこれはと思えるものがないか確認して,機会を作って整理して報告できるよう努める。

リーダシップを変えよ!

 現厚生労働大臣の舛添要一氏は,参議院議員の頃,平成17年(2005年)3月10日に開催された参議院予算委員会で次のように発言している(この審議には社会保険庁運営部長の青柳親房氏(当時)も出席していた)。

「やっぱり国民の税金とか社会保険料,これは一円とも無駄にしちゃいけないと,そういう立場でやるべきだと思うんです」(国会会議録検索システムより)

 その後,舛添氏が厚生労働大臣に就任したことで,この質問趣旨と理念は実現に向かうと期待した。しかし,就任以来の舛添氏の社保庁と年金制度運営に対するリーダシップには大いに疑問がある。ここのところ矢継ぎ早に公表されている「年金記録問題」解決への施策には「一円とも無駄にしちゃいけない」という理念はさっぱり反映されていない。社保庁が解決施策を企画立案する際には,「一円とも無駄にしちゃいけない」という理念を具現化するよう“指揮”してもらいたい。

 もうひとつ,前任の村瀬氏は社保庁長官として応分の貢献をされたと私は認識しているが,後任の長官坂野泰治氏は社保庁トップとして何をされているのかさっぱり分からない。つまり坂野氏のリーダシップが見えない。

 保坂展人衆議院議員のブログを見ると,保坂氏が坂野長官に23日面会した際の様子がある。それを読むと,坂野長官が問題を抱え込んでいる社保庁のトップとしてリーダシップを発揮し,「年金記録問題」の解決に奔走しているとは思えない。私はこの長官の給与を年金会計から人件費として支出することには同意しかねる。

 「一円とも無駄にしちゃいけない」という理念を社保庁が具現化するよう,リーダシップを発揮できる社保庁長官を選び直してもらいたい。併せて,舛添厚労大臣がマスメディアに向かって表明される場合には,原則,当該部門の最高責任者である社保庁長官にも発言・表明してもらいたい。社保庁長官を“盲腸”のような存在にしないためにも。

 以下,年金記録問題の解決・解消に情報通信システムを活用するための提言を列記する(見直しという表現は使わない)。