高速化した3Gデータ通信を使いやすくするため,通信機能をノート・パソコンに内蔵させる動きもある。カード端末の管理が必要なくなることで,情報システム担当者の負荷を軽減できる。既に,NTTドコモのサービスに対応したパソコンと,KDDIに対応するパソコンの合計6機種が発売されている(写真1)。

写真1●3Gデータ通信機能を内蔵したノート・パソコン
写真1●3Gデータ通信機能を内蔵したノート・パソコン
NTTドコモとKDDIに対応したパソコンがそれぞれ登場している。

 現在は「カード端末が不要」くらいのメリットしかない3G内蔵パソコンだが,2008年以降は企業ユーザーのノート・パソコンの使い方を一変させるかもしれない。というのも,社員が持ち出したパソコンを,管理者が遠隔管理する機能を付加できる可能性があるからだ。

 例えば,3G通信機能を利用して,「遠隔地からシステムが立ち上がらないようにしたり,ネットワークに接続できないようにすることも可能になる」(レノボ・ジャパンの落合敏彦製品事業部担当執行役員)。携帯電話では,紛失時に遠隔地から操作ロックをかけたり,データ消去をするサービスがある。これのパソコン版が登場するわけだ。

インテル「vPro」などと組み合わせて実現

 遠隔セキュリティ管理の実現手法では,(1)ノート・パソコンに内蔵した3G通信機能,(2)米インテルのパソコン管理技術「vProテクノロジー」の組み合わせがある(図1)。

図1●社外に持ち出したノート・パソコンの管理が可能になる
図1●社外に持ち出したノート・パソコンの管理が可能になる
ノート・パソコンに3G通信機能が内蔵されると,ノート・パソコンが無線ネットワークに常時接続できる状態になる。米インテルの「vProテクノロジー」などを組み合わせれば,遠隔地からのセキュリティ管理,リモート・ロックなどを実現できる。
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 パソコンに3G通信機能を内蔵すれば,パソコンの電源を切っても,3Gモジュールに待ち受け用の電力を供給するなどの作り込みが可能になる。つまり,エンドユーザーがパソコンを使っていようがいまいが,管理者は持ち出されたパソコンに対して「システムのロック」などの命令を送り込めるわけだ。

 パソコンに送り込まれた命令を実行するのがvProテクノロジーである。vProテクノロジーに対応したパソコンは,ネットワークを通じた電源のオン/オフやOSの更新といった制御を実現する管理機構が常に動作する。ユーザーが使うOSの裏側で動作する“管理者用のOS”という位置付けだ。遠隔地からのセキュリティ・アップデートも可能。危険度の高いウイルスが登場した場合,管理者が遠隔地からノート・パソコンをアップデートさせて感染を未然に防ぐ用途にも役立つ。

 通信事業者では,KDDIがこうしたセキュリティ・サービスに最も積極的。実現手法は明らかにしなかったが,カード型端末を使うウィルコムも「そう遠からず,パソコン向けのリモート・ロックのようなサービスを提供する」(寺尾副本部長)としている。あるパソコン・メーカーは「技術部門での検討を進めている。1~2年後には実現する」という。早ければ2008年中にも,遠隔管理できるセキュリティ機能が提供されそうだ。

業種や職種でシン・クライアントと使い分け

 シン・クライアントがモバイル環境で使えるようになったり,遠隔地からのセキュリティ管理が可能になれば,ユーザー企業にとっては適用できるセキュリティ手段が増えることになる。今までは,ノート・パソコンに適用できるセキュリティ手段が限られていて,それに合致しない企業はノート・パソコンの持ち出しを禁止せざるを得なかった。

 例えば金融機関などデータ漏えい時のリスクが高い企業ならば,通信の高速化で使いやすくなったシン・クライアントの適用が向く。初期コストは高いが,秘匿性の高い情報に社外からアクセスできる環境を作ることは,営業担当者の生産性を高められるはずだ。一方,金融機関ほど扱うデータの秘匿性が高くない企業では,初期投資の小さい遠隔セキュリティ管理が向く。

 レノボ・ジャパンの落合製品事業部担当執行役員は「これからは,コストやセキュリティ強度で様々な選択肢を用意できる。再びノート・パソコンのモバイル利用に注目が集まるだろう」と期待する。

超小型パソコンがモバイルを活性化する

 2008年には,よりモバイルに特化した小型の端末が増えていきそうだ。実力は未知数だが,モバイル端末の持ち歩きを活性化させる可能性がある。旗振り役は米インテル。UMPC(ultra mobile PC)やMID(mobile internet device)と呼ばれる超小型端末を,2008年以降さらに広げていこうとしている(写真2)。

写真2●インテルなどが提供する超小型端末「UMPC」と「MID」
写真2●インテルなどが提供する超小型端末「UMPC」と「MID」
UMPCはWindows OSを採用し,パソコンと同様に汎用的に使えることを目指した端末である。MIDはOSにLinuxを採用する。Web閲覧に特化するなど,UMPCに比べると限定した用途で使う設計になっている。

 UMPCは,ノート・パソコンをそのまま小さくするというコンセプトである。OSには,一般のパソコンと同様にWindows Vistaなどを搭載。汎用的に利用できるようにしている。一方,MIDはOSにLinuxを搭載して,限定した用途に特化するコンセプトである。PDA(携帯情報端末)やカーナビゲーション・システムに近いものになるが,パソコン同様のインターネット環境を持つ点が特徴だ。ともに,従来のPDAとパソコンの中間に位置する端末といえる。

 インテルはこれらを推進するべく,トランプ大の基盤にパソコンの部品を集約したプラットフォーム「Menlow」を2008年に出荷する。これはUMPC,MIDどちらにも利用できる。実際の端末は,5~7インチ程度のディスプレイを持ち,DVDケースくらいの大きさで重さ数百gとなりそうだ。UMPCは10万~15万円,MIDは5万~8万円程度になると予想されている。

 ただし,「現行のノート・パソコンは会社のデスクでも使うが,UMPCは小さ過ぎて会社のデスクでは使いづらい。コストをかけて,外出先でしか使わない“2台目”の端末を購入する企業がどこまであるかは疑問」(NECインフロンティア国内営業事業本部ネットワーク営業事業部の阿部一之ネットワークSI部長)という声もある。