「携帯電話やスマートフォンを持っていれば,その場がオフィスになる」(NTTドコモの三木茂法人ビジネス戦略部長)──。その言葉の通り携帯電話は,パソコンにどんどん近付いている。フルブラウザ搭載端末を利用したり,パソコンとの親和性が高いWindows Mobileを使うことで,携帯電話をパソコン並みに業務に活用する事例がますます増えるだろう。

 ただ携帯電話は,パソコンと比べてCPUパワーも劣れば,画面の表示サイズも限られている。単にパソコンと同じ機能を追加しただけでは,ノート・パソコンと同じような操作性は望むべくも無い。

 そんな中,携帯電話の新たな進化の方向性として見えてきたのが,操作性の向上だ。携帯電話のサイズに合った形で,インターネット・サービスやアプリケーションの使い勝手を向上する試みが多数登場してきた。「iPhoneの登場によってユーザー・インタフェースの重要性が再認識されたことも一因」と多くの関係者は口をそろえる。

ウィジェットで情報へ即アクセス

 2008年の大きなトピックとして,携帯電話向けにウィジェットが登場することが挙げられる(図1左)。KDDIがウィジェットに対応する端末を2008年1月以降に発売するほか,NTTドコモやソフトバンクモバイル向けにフルブラウザを開発しているACCESSも,「2008年中にウィジェット機能を含むソフトウエア基盤を提供する方針である」(鎌田富久取締役副社長兼CTO)という。

図1●2008年は携帯端末の操作性向上に脚光が当たる
図1●2008年は携帯端末の操作性向上に脚光が当たる
2008年に,ウィジェットやメニューのカスタマイズ・サービスなどが登場する。これらによって携帯電話の使い勝手は大きく改善される。

 ウィジェットは,待ち受け画面への情報配信とネット・サービスへの窓口という二つの側面を持つ。例えば,携帯の待ち受け画面に好みのウィジェットを常駐させておくことで,社内の新着メールやニュース・サイトの更新情報が一目で分かるようになる。より詳しい情報を知りたければ,ウィジェットをクリックするだけでブラウザを起動して,一発でサイトにアクセスできる。携帯電話で効率よくインターネット・サービスを活用するために欠かせない存在になりそうだ。

メニューを企業専用にカスタマイズ

 携帯電話のメニューやボタン割り当てを業務専用にカスタマイズできるサービスも2008年に登場する。ソフトバンク・グループが2008年1月に始める法人向けの携帯電話メニューのカスタマイズ・サービス「Bizフェイス」だ(図1上)。

 これは待ち受け画面用のJavaアプリを,テンプレートに沿った形でカスタマイズできる仕組み。メニューにイントラネットへのリンクを登録したり,携帯ボタンに特定の機能を割り当てられる。企業のシステム管理者自らがブログのデザインを変える感覚で手軽にカスタマイズできる点も特徴だ。

 NTTドコモが2008年3月までに発売する「F1100」(図1下)も,任意の機能を割り当て可能な汎用ハード・ボタンを4個備えた。例えば「保留転送」や「ピックアップ」という機能をハード・ボタンに割り当て可能だ。これまで同種の端末では,複数のボタンの組み合わせで「保留転送」などの機能を実現していた。F1100では,これらの機能をボタン一発で呼び出し可能になる。

 ユーザー・インタフェースの改善によって,携帯電話を感覚的に扱えるようにする動きも目立ってきた。例えばNTTドコモが2008年3月までに発売する台湾HTC製のWindows Mobile端末「HT1100」はタッチパネルを採用。ディスプレイ上で指をなぞることで,3D効果付きのメニュー操作を実現する(図1右)。

 NTTドコモのFOMAの半数以上の機種が採用しているシンビアンOSは,新版で透過効果を使って複数のウインドウを重ねて表示する機能を追加する。例えば「アプリケーション間でウインドウを遷移した場合,元のウインドウをバックグラウンドに表示したまま,新しいウインドウを操作できるようになる」(シンビアンの久晴彦代表取締役社長)。この機能は2008年後半以降に出荷される端末に実装される見込みだ。限られた携帯電話の画面サイズを有効活用する工夫として注目すべき動きだろう。

オープン化進展で多様な携帯が登場

 操作性の向上によってパソコンやインターネットの世界に接近している携帯電話。この流れをプラットフォームの改変で根本から進める動きも現れた。米グーグルが2007年末に公開した,携帯電話向けソフトウエア・プラットフォーム「Android」がその代表的存在だ。グーグルは,無償を武器に携帯電話事業者や端末メーカーに採用を促し,同社の主戦場であるインターネットに携帯電話を誘い込もうとしている。インターネットの文化を携帯に本格的に取り入れることで,企業向けアプリケーションやサービスの開発を加速させるという狙いがある。

 その先に見えてくるのは,これまでのように携帯電話事業者が垂直統合でサービスを管理するのではなく,通信機能とサービスがよりオープンな関係となる世界だ。実際,MVNOの進展や端末チップの低廉化によって,他分野で強力なブランドを形成している事業者が主導権を握って通信サービスを提供するケースも出てきている。例えば米アマゾン・ドット・コムは米スプリント・ネクステルの通信回線をMVNOとして借り,ネット経由でコンテンツをダウンロード可能な電子書籍端末を米国で発売している。

 こうした動きは企業ユーザーに歓迎すべきものだろう。将来的には,例えば特定業務に特化した携帯やSaaS専用携帯など,多種多様なニーズに応えられる「カスタマイズド携帯」が登場するかもしれない(図2)。

 
図2●企業や個人のニーズに応える「カスタマイズド携帯」の実現が見えてきた
図2●企業や個人のニーズに応える「カスタマイズド携帯」の実現が見えてきた
パソコンライクなオープンなプラットフォームの充実や,ネットワークのオープン化の進展によって,多種多様なニーズに沿った端末が登場しやすい環境が訪れる。