2008年は企業の内線システムの分野で,固定電話と携帯電話の融合が一層進展しそうだ。

 現在は,無線LANデュアル端末を使ったNTTドコモのPASSAGE DUPLEなどのサービスがその市場に挑んでいる。しかし400万台以上が企業に導入されたと言われる構内PHSを置き換える存在にはなり得ていない。

 その代わりに「携帯電話だけで済ませる」という新しい波が打ち寄せている。ソフトバンクモバイルが2007年初頭に開始した音声準定額プラン「ホワイトプラン」などを使って,携帯電話そのものを内線電話の代わりに使うケースが増えてきている。このような利用法に加えて2008年は,固定回線を上手く活用し,携帯電話中心の利用をさらに利便性の高い形にする動きが見えてきた。「フェムトセル」が2008年後半にも登場する見通しとなったからだ。

 フェムトセルとは,ユーザー宅やオフィス内に設置可能な超小型携帯電話基地局のこと。固定回線にフェムトセルをつなぐだけで携帯のコア・ネットワークとの接続が完了し,そこに小型の携帯基地局ができる。

 携帯電波の不感地域向けの対策となるほか,基地局設営コストを抑えられるため,フェムトセル経由の通信料金を割り引くサービスなども期待できる。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役CTOは「フェムトセルによって,より安く高速なモバイル・サービスを提供できるようになる」と語る。

内線システムの新たな構築手段に

 企業ユーザーにとってフェムトセルは,やり方によっては携帯電話を使って内線システムを構築する,新たな手段となる可能性がある(図1)。オフィス内にフェムトセルを設置することで,フェムトセル経由の通話を内線扱いにする形が考えられるからだ。オフィス内のPBXやファイル・サーバーとの連携によって,携帯からフェムトセル経由でオフィスの内線電話に無料通話したり,ファイル・サーバーへのアクセスを無料にする形も見えてくる。

図1●フェムトセルが企業ユーザーに与えるインパクト
図1●フェムトセルが企業ユーザーに与えるインパクト
ブロードバンド回線にフェムトセルを接続できるようになるなど制度面で整理が付けば,フェムトセルを使った業務システムへの応用が見えてくる。
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 フェムトセルはこれまで開発段階にあったが,2008年に本格的に実用化される見込みだ。日本では制度面において課題が残っていたが,それも2008年秋以降に規制緩和される見通しとなってきた。いち早くフェムトセルのトライアルを開始したソフトバンク・グループはもちろん,既存基地局と同様の扱いでフェムトセルの運用を開始したNTTドコモ,さらにはKDDIやイー・モバイルという日本のすべての携帯事業者が,フェムトセルの検討を進めている。2008年後半には,国内でフェムトセルを使ったサービスが続々と登場する見込みだ。

 フェムトセルの実用化によって企業ユーザーには,通常の携帯電話を使って固定と携帯を区別することなく利用できる環境が訪れる。「固定と携帯の融合」(fixed mobile convergence)が一段と進むのは間違いない。

制度見直しでより安価なシステムを目指す

 フェムトセルを使った内線システムをイメージするには,既に提供されている企業向けのサービスが参考になる。KDDIの「OFFICE WISE」やNTTドコモ「OFFICEED」など,オフィス内にピコセルと言われる携帯電話基地局を設営し,登録端末間でピコセル経由の通信を無料とするサービスだ。フェムトセルを使ったサービスは,ピコセルを使うものをより簡素化した形になる。KDDIソリューション事業統轄本部ソリューション商品企画本部の中島昭浩モバイル商品企画部長は,「OFFICE WISEを安く提供する手段として,当然フェムトセルは検討している」と言う。

写真1●同時アクセス数を4程度に減らしたフェムトセル
写真1●同時アクセス数を4程度に減らしたフェムトセル
写真はNECが扱う英ユビキシス製のフェムトセル。無線LANルーター程度のサイズで,電波の出力も抑えている。

 OFFICE WISEやOFFICEEDは,携帯電話基地局の設営コストやサービス提供までの時間がかかることなどが理由となって,今のところ多くの導入企業を獲得するには至っていない。現状の制度では,通常の基地局と同様に1局ごとに免許申請が必要になるほか,基地局と携帯コア・ネットワークを結ぶ回線にも信頼性が要求されるため,高価な専用線が求められるからだ。

 現状ではフェムトセルにも同様の規制がかかる。しかし将来的には,フェムトセルが小型で電波の出力も弱いことから(写真1),制度上の扱いの見直しを求める方向で事業者と総務省の間で調整が進んでいる。より手軽に低コストなシステムを目指している。

 携帯電話の基地局の設置や運用にかかわる制度には,電気通信事業法と電波法がある。前者は,基地局とコア・ネットワークを結ぶ回線は事業者の管理下に置かれ途切れは許されず,QoS保証が必須という規定がある。後者には基地局の免許申請が1局ごとに必要といった点がある。

 管轄する総務省は,条件付きながらこれらの規制を緩和する方向で動き始めている(図2)。電気通信事業法に関する部分については,「一定品質を持ったブロードバンド回線については,2008年3月末までに利用を許可する方向で整理を進めている」(総務省事業政策課)。これによって事業者がフェムトセルを管理下に置いたうえで,ブロードバンド回線と接続して展開することが可能になる。

図2●2008年秋にかけて国内でフェムトセルを使ったサービスが本格登場する見込み
図2●2008年秋にかけて国内でフェムトセルを使ったサービスが本格登場する見込み
日本では総務省によるフェムトセルの制度上の取り扱いの整理が一つのポイントとなる。本格的にフェムトセルを使ったサービスが拡大するのは2009年以降になると見られる。
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 一方で基地局の免許申請にかかわる電波法については,緩和までにはまだ時間がかかりそうだ。「設置の手間とコストを抑えるため,フェムトセルを包括免許扱いにしたいが,そうなると電波法改正が必要。国会まで行く可能性があり,総務省からは最短でも秋ころになると言われている」(宮川CTO)。ソフトバンクモバイルとしては,4月1日から商業施設内などでの展開を進め,電波法改正が終わる秋以降に本格的な商用サービスを開始する考えだ。