前回(昨日掲載)はNTTグループの企業向けサービスに触れたが,ワンストップ・サービスを増やす動きはKDDIやソフトバンク・グループでも顕著になっていく。異なるサービス品目をシームレスに見せる“融合”も本格化する。

 KDDIもSaaSを強化していくが,携帯電話への対応で先行を図る(図1)。2008年はサードパーティと協業して提供するSaaSソリューションである「Business Port」を開始。マイクロソフトと協力して3月から提供する第1弾サービスは,メールやスケジュール機能などをパソコンと携帯電話から使える「Business Outlook」となる。セキュリティ・ベンダーのラックとも協業し,セキュリティのサービスも強化する。提携パートナは今後も増やす計画だ。

図1●KDDIの2008年のネットワーク・サービス
図1●KDDIの2008年のネットワーク・サービス
「固定と移動の融合」が,目に見えるサービスとして現れてくる。
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 企業がアプリケーションと同様に自社内のIT資産をアウトソースできるように,データ・センターのサービスも充実させる。サーバーのホスティングだけではなく,OSやミドルウエアまでアウトソーシングが可能な「アドバンスドデータセンター」を強化。このタイプのデータ・センターの数を増やすという。

 また1社で固定電話と携帯電話の両方を提供している強みを生かし,両者を融合させたサービスに乗り出す。現在はアナログ電話,IP電話,携帯電話の3種類の音声サービスを提供中だが,携帯電話間と携帯電話から固定電話に定額でかけられる「ビジネス通話定額」サービスを拡充。2月には,同一のグループ内であれば固定から携帯にかけても定額にする。

 例えば,運送会社の本部にある固定電話からドライバーの携帯電話に連絡を取る場合に,通話料を定額にして無線を代替するなどの使い方が考えられる。「事務所のメタルプラス回線にかかってきた通話を出先の営業担当者の携帯電話に転送しても定額で済む。この場合,転送先の携帯に通知される発信者番号は電話をかけた人の番号になる」(テレフォニー商品企画部企画グループの野口健主任)。

 データ通信サービスでも,固定と携帯の融合を図っていく。閉域網サービスのバックアップ用途に携帯電話回線を使う「FMCバックアップ(仮称)」サービスを開始する予定だ。

ソフトバンクもワンストップ化を推進

 ソフトバンク・グループで企業向けネットワーク・サービスの多くを手がけるソフトバンクテレコムは,2008年は複数ある固定通信サービスの融合を進める。インターネット・データ事業本部の榎本洋一本部長は,「ユーザー企業は,当社のVPNサービスのスペックの違いを意識しなくなっていくだろう」と予想する(図2)。今後,インターネットと閉域網の2種類のIPネットワーク,そして専用線やフレーム・リレーを置き換える計画の広域イーサネットで,企業向けサービスを構成していく。

図2●ソフトバンクテレコムの2008年のネットワーク・サービス
図2●ソフトバンクテレコムの2008年のネットワーク・サービス
「ワンストップ化」の動きが目立っていく。
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 ただしこうした方向とは別に,ユーザーへのサービス提案は極力シンプルにしていく。つまりユーザー企業が,サービス品目の違いを気にせずに最適なサービスを選べるようにする。

 一部でサービスを開始しているSaaSのラインアップも強化する。パートナとなるアプリケーション・ベンダーをさらに増やし,「VPNなどのネットワーク・サービスでSaaSとユーザー企業をつないでいく。ユーザー企業がトラブル発生時に問い合わせをしやすくするために,サービス提供モデルはワンストップにすべきだと考える」(榎本本部長)。

 またワンストップ・サービスの強化策として,データ・センターに力を入れていく。ホスティングとネットワークを一体型で提供するKeyPlatなどに加えて,コンピュータ資源の仮想化に対する取り組みも強化する。これは「仮想化サーバーのホスティングに対する案件が出ており,ユーザーの関心も高い」(研究所の片山武彦担当部長)からだ。

 ニーズが増えていることを受けて,ディザスタ・リカバリのソリューションも強化する。現在はネットワークとデータ・センターをそれぞれ単体で提供しているが,2008年は適切なサービスの組み合わせで提供することを考えるという。同社でも,2008年はワンストップ化の動きが今まで以上に活発化しそうだ。

コンサルタントの眼●2008年 私はこう見る
電話料金の設定がNGN普及の鍵
山下 克司●日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業 ITSソリューション・センター ディスティングイッシュト・エンジニア
山下 克司
日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業 ITSソリューション・センター ディスティングイッシュト・エンジニア

 2008年にはNTTがNGNのサービスを始めるが,ユーザー企業をNGNに振り向かせるきっかけとして,データ通信ではなく電話料金の安さに期待している。具体的には,通話料はひかり電話と同様の3分8円程度,基本料が安めで,同じグループ内であれば無料という料金体系だ。そこに明らかな費用対効果を見いだした企業が,企業内や企業グループ内をNGNで結ぶ大規模な音声ネットワークを構築する。

 NGNにつながっていないと,後でNGN上に自然発生的に良いサービスが出てきても使ってもらいにくい。電話で成功させることがNGN発展の第一歩だろう。今後ICT(information and communication technology)が本格化するに従って,リアルタイム・コミュニケーションのアプリケーションに注目が集まるようになる。NGNはチャットや電話会議,テレビ電話,テレビ会議,画面共有などのリアルタイム・コミュニケーションがアプリケーションとしてとらえられる契機になるだろう。

 携帯電話は2008年以降,搭載機能ごとにハードウエアが分かれていくと予想している。2007年にはSIMロック・フリー端末が登場したが,これは携帯電話の機能がばらけ始めた瞬間ととらえられる。W-CDMAなどの通信機能だけを搭載したデバイスを中心として,それがBluetoothやDSRC(dedicated short range communications)などの近距離無線を通じてPDA(携帯情報端末),ペン型に近い電話機,腕時計型コンピュータなど複数のデバイスとつながっていくと思う。

 企業ネットワークの大規模化が進んでいる点も見逃せない。近年は,ネットワークのことは通信事業者に任せる傾向が強まってきており,トラフィック・フローが見えなくなった側面がある。とは言え,企業はネットワークに特別な要求をすることもある。2008年以降は,ネットワークの接続形態を通信事業者に任せきりにせず,企業がインテグレータと考えていくケースが出てくるかもしれない。

 2007年には,大規模なネットワーク障害が発生している。経験,勘,度胸といったものではなく,科学的手法で対応できる体制を考えることも,(システムやネットワークの構築に携わる者としての)2008年の重要なテーマだと受け止めている。(談)