2008年は,企業向けのネットワーク・サービスに三つの変化が起こる。(1)サービスの世代交代が始まる,(2)ネットワークとアプリケーションを一緒に提供するワンストップ・サービスが増加する,(3)固定と携帯など従来は異なる品目を一体化したサービスが登場する──である。これらの動きにより,通信事業者の企業向けサービスの統合が始まる。

ネット・サービスの世代交代始まる

 企業向けサービスの世代交代は,NTT東西が3月に始めるNGNの商用サービスが皮切りとなる。開始当初の提供地域は一部地域に限られるが,将来多くの企業ユーザーに欠かせないサービスとなる。既存の地域IP網やひかり電話網といったIPネットワークが順次NGNに置き換わり,最終的にはほとんどのサービスがNGN上で提供される計画だからだ。つまり既存のサービスがNGNに統合されていく。

 またNGNでは,NTT東西が公開するインタフェースを活用して,SaaS事業者やインターネット接続事業者(ISP)などがQoSやセキュリティ機能を生かしたアプリケーション・サービスを始める見込み。NGNは単なるネットワーク・サービスというよりも,企業のITインフラ全般にかかわるサービスのプラットフォームになる。

通信事業者のアプリ・サービスが増加

 NGNでの提供を視野に入れて,通信事業者が従来は別々に提供していたサービスを組み合わせる動きも進みそうだ。いわゆるワンストップ・サービスである。なかでも,ネットワークとアプリケーションを組み合わせたサービスが目立って増えそうだ。

 ワンストップ化が注目されている背景には,ユーザー企業がIT資産を集約していることと,企業がアウトソーシングを進めていることがある。ユーザー企業の多くが利用する閉域網上で業務アプリケーションを展開すれば,セキュリティの確保,販売・問い合わせ窓口の一本化などのメリットを提供できる。

 NTTコミュニケーションズ(NTTコム),KDDI,ソフトバンクテレコムなどの通信事業者はこの2~3年,SaaSなどネットワーク以外のサービスの開発に注力している。VPN上でストレージを提供するものなど一部で提供が始まっているが,2008年にはその数が増えそうだ。KDDI営業企画部ユーザコミュニケーショングループリーダーの澤池宣英課長は,「コア・ネットワークの使い勝手を高めることに加え,企業内やアプリケーション・レイヤーのサービスもワンストップで提供する方向に進んでいる」と話す。

 同じように,通信事業者が企業のIT資産を預かるデータ・センターのサービスを充実させる動きも加速する。NTTコム マーケティング部統合VPN販売企画担当の中山幹公担当部長は,「BPO(business process outsourcing)を含めて,企業のアウトソーシングは増えていくだろう。ユーザー企業の抵抗感が下がってきているようで,データ・センターのニーズが高まっているからだ」と説明する。

固定電話と携帯電話の垣根が消滅

 通信事業者は,将来NGNで固定電話と携帯電話が融合したサービスを提供する計画だが,一足先に既存のネットワークでもこうした融合サービスが始まりそうだ。サービス提供者側からみれば,固定と携帯は別の事業者,もしくは別のサービスとして提供するのが一般的。しかしユーザー企業からすれば,どちらも必要であり,あえて分ける必然性はあまりない。区別がなくなることで,料金の低下や使い勝手の向上など,ユーザー企業が得られるメリットは多い。

 例えばKDDIは2月に,同じグループ内なら発信先が固定電話か携帯電話かを問わずに,通話料を定額にする音声サービスを始める。ソフトバンクモバイルをはじめとする携帯電話事業者は,超小型の携帯基地局であるフェムトセルを使ったサービスを検討している。普段は携帯ネットワークを使い,オフィスや家庭に設置した小型基地局のエリア内にいるときは固定ネットワークを使う固定・携帯の融合サービスだ。

NGN提供は限定的だが要チェック

 では順を追って,3大通信グループの2008年の動きを見ていこう。

 まずNTTグループの2008年の一大イベントは,NGNサービスの開始だ。この上で県内または県間を結ぶイーサネットやVPN,0AB~J番号を使うIP電話などの企業向けサービスを提供する。ただし料金などサービスの詳細は,活用業務の認可後に発表されるため,現時点でNGNの企業向けサービスと既存サービスとの関係は,はっきりとは見えていない。

 NGNでは,QoSなどのネットワーク機能を利用したアプリケーション・サービスの登場も予想される。NTTが実施したNGNのフィールド・トライアルでは地震速報や医療,映像配信などに,その一端を垣間見ることができた。とはいえ現時点ではまだ,多くの企業が利用しそうな“キラー・サービス”は見えていない。NGN元年は静かなスタートを切りそうだ。

フレッツVPNの利用環境が充実

 サービス開始当初,NGNの提供地域は東京と大阪の一部に限定され,まだ全国レベルでは使えない。そのためユーザー企業の多くは,既存のフレッツ・サービスを使うことになる。NTT東日本に聞くと,2008年にはこれらの既存サービスは「安心して」,あるいは「手軽に」利用できる環境を整備していくという(図1)。

図1●NTT東西の2008年の企業向けサービス(NTT東日本の場合)
図1●NTT東西の2008年の企業向けサービス(NTT東日本の場合)
NGNのサービスを開始。既存のサービスは「安心,手軽に」使える環境を整備していく。

 例えば,料金が比較的安価で市販のブロードバンド・ルーターで閉域網を構築できる手軽さが受けているフレッツVPN。NTT東日本は,フレッツVPNを基幹ネットワークとして使う場合などに役立つサポート・メニューの充実を図っている。2007年3月に,フレッツ・アクセスポートとフレッツ・オフィスを対象に始めた「あんしんサポートプラス」がその一つ。フレッツ網からBフレッツ回線(つまりユーザー拠点)に向けてpingを送り,届かない場合にメールで通知するオプション・メニューである。NTT東日本のオフィス営業推進部販売推進部門VPN担当の坂井秀行課長は「中小企業がフレッツVPNを基幹系システムの通信に使う傾向は続きそうだ」と話す。

 広域イーサネット・サービスの「ビジネスイーサ」についてNTT東日本は,2008年はユーザー企業の「BCPを実施したい」,「保守や運用の手間を削減したい」というニーズを満たすことを重視するという。

NTTコムはBCPとSaaSに注力

 NTTコムも,閉域網サービスにおける今年の強化ポイントの一つに,企業のBCPへのニーズを満たすことを挙げる。その一例として,2種類の閉域網を同時に提供する「デュアルアクティブVPN」のメニュー化を目指す。また,無線をバックアップ回線に使うサービス品目の提供も視野に入れている(図2)。

図2●NTTコミュニケーションズの2008年の企業向けサービス
図2●NTTコミュニケーションズの2008年の企業向けサービス
ネットワークとアプリケーションを一体化したサービスを,これまで以上に増やしていく。

 その閉域網と,NTTグループの中では強みを持つアプリケーション・サービスをセットで提供して,ユーザー企業の利便性を高める取り組みも強化する。NTTコムの中山担当部長は,「通信回線と,それに付随したサービスを合わせて提供していきたい。ネットワークを使う感覚で,SaaSやセキュリティ,データ・センターなどを使えるサービスを増やしていく」と話す。

 NTTコムは2006年10月から,IP-VPNや広域イーサネットを介して利用できるストレージとセキュリティのサービスを提供している。いずれも自社開発のサービスだが,2007年からは外部のアプリケーション・ベンダーと協業して提供するサービス品目を加えている。既にNECインフロンティアと協業してVPN上でWebベースのPOS(point of sales)サービスを,ポリコムとはテレビ会議のサービスを開始した。これらは,VPNと連携するSaaSと見ることができる。

 次回(明日掲載)は,KDDIとソフトバンク・グループの企業向けサービス像を予測する。