Windows Vistaライセンスの初年度における売り上げ数は,約1億になりそうだ(同社のレポートによると,2007年11月の時点でのライセンス販売数は8800万だった)。これは決して悪い数字ではない。しかし,PCメーカの2007年度(暦年)におけるPC売り上げ予測が2億5000万台を超えていることを考えると,なぜMicrosoftは最低でもその2倍(つまり2億)のVistaライセンスを売ることができなかったのだろうか?

 その理由として,最近次のようなことが言われている。「MicrosoftがVistaのセキュリティに力を入れすぎて,ユーザーの目を引く派手な機能をなおざりにしてしまったからだ。さらに悪いことに,彼らはVistaの発売前に,セキュリティの強化された前クライアントOSのアップデート(Windows XP SP2)をリリースしてしまった」。

 筆者はこの主張をどう理解すればよいのかわからない。PC所有者にすぐアップデートしたいと思わせるような見た目の派手な機能がVistaには欠けている,という点については筆者も同感である。しかし,Windowsのセキュリティ強化が急務だったこともまた事実だ。そして,Vistaの高度なセキュリティ機能によって,Windowsのセキュリティは確かに向上したように思える。差し出がましいUser Account Control (UAC)機能に不満を感じるユーザーはいるものの,デフォルトの状態でVistaがXPよりもセキュアなのは明らかだ。

 だがこの主張をすると,別の疑問が浮かんでくる。Vistaが本当にセキュリティ面でXPよりはるかに優れているのなら,企業によるVistaの採用がこれほど遅れているのはなぜなのか? 私たちは,「企業はいつもSP1のリリースまでアップグレードを控えるものだ」という言葉を金科玉条のごとく繰り返す。しかし,Vista SP1のリリース(2008年第1四半期の予定)で本当に今の状況は一変するだろうか?

 筆者はそうは思わない。Microsoftは早い時期から,SP1でVistaの価値提案が変わることはないと話していた。確かに,バグ・フィックスや小規模な機能強化を累積したこのサービス・パックに,大規模な新機能は全く含まれていない。派手な新機能の変わりに,SP1はOSのコア部分への細かな機能強化を堅実に提供する。

 つまりSP1は,従来のMicrosoftのサービス・パックと同様の累積アップデートなのだ。Vistaの抱える本当の問題は,Vistaのできが悪いということではなくて,XPが今でも十分に通用するということだと筆者は思う。XPはやがて,経年劣化によって企業から姿を消すだろう。しかし,Microsoftは大口のカスタマーの不満を鎮めるために,Vistaの主要機能の一部をXPに下位移植し,XPの事実上の使用期限をかつてないほど引き伸ばしているのだ。

 これは興味深い状況である。そして,筆者の知る限り,Microsoftの歴史において初めての出来事だ。Vistaへの移行は,約15年前にWindows NTの最初のバージョンがリリースされて以来,最長のアップグレード・サイクルになるかもしれない。そして,Vistaへのアップグレードに伴う問題は,アップグレード・サイクルの長期化とはほぼ無関係なのだ。

 Microsoftは2007年末,三つのOSアップグレードの完成間近のバージョンを同時期にリリースするという,初めての試みを行った。したがって,今はそれぞれのバージョンをテストする理想的なときなのだ。その三つのリリースとは,Windows Vista SP1 Release Candidate 1 (RC1)とWindows Server 2008 RC1,そしてWindows XP SP3 RC1である。筆者は,これらのリリースをすべてSuperSite for Windowsで取り上げたことがあるが,全体を俯瞰した感じでは,どのリリースにも劇的な変化はない。

 先にも述べたように,Vista SP1は互換性とパフォーマンスの向上を志向しており,非常に完成度が高い。Windows 2008には,過去のベータ・リリースに含まれていた重要な新機能がすべて追加され,遂に基本機能が完成した。そして,XP SP3には,Microsoftが2001年以降出荷した数百のホットフィックスがすべて含まれている。どのリリースにも劇的な変化はないものの,以前より完成度が向上し,洗練されたものになった。そしてもちろん,今回の公開により,前よりも多くの人々がこららのリリースを利用できるようになったのである。