NGNは電話番号などを使う回線認証によって,インターネットVPNよりも高いセキュリティを確保したリモート・アクセスを実現できる。しかも,全国に展開していく汎用的なネットワークであるため,ユーザーの追加が容易であり,一時的に特定の企業を接続するといった柔軟な対応も可能になる。こうした特徴を持つNGNは企業ユーザーにとって,専用線でもVPNでもない新しい選択肢になる可能性がある。

 仮にQoSを保証したNGNのサービスが,使った分だけ課金される従量制料金を採り,トータルで専用線よりも安い料金で利用できるなら,企業がNGNを選ぶ可能性がある。実際に「SOHOや中小企業がNGNに専用線的な役割を期待している」(日立製作所の平岩賢志ネットワーク事業戦略室部長)。

 全国各地に多数の中小拠点を抱える企業にも,NGNを使用するメリットは大きい。例えば,データを本社データ・センターで集中的に管理して,地方の拠点からはシン・クライアントでデータ・センターにアクセスする場合が考えられる。シン・クライアントとサーバーの間で十分な帯域を確保する用途にNGNを利用できる。

 さらに,情報漏えいなどが起こらないように,アクセス時のセキュリティを確保する必要もある。専用線を使えば莫大なコストが発生し,インターネットVPNを使うとセキュリティの安全性確保が必須となる。NGNの導入よって,コストを抑えながら安全で,帯域が保証されたネットワーク環境を構築できる。

SaaSやMtoMの流れを加速

 NGNは,SaaSなどのオンデマンド・アプリケーションの普及を加速するきっかけにもなり得る。野村総合研究所情報技術本部技術調査部の藤吉栄二主任研究員は,「セキュリティや品質など通信インフラが抱える問題を解決するNGNが,SaaSの普及促進材料となる可能性は十分にある」と予測する。

 例えば,社内だけでなく外出先や自宅など複数の場所からSaaSを提供するサーバーにアクセスしてサービスを利用する場合。NGNの回線認証機能などを使ってユーザーがアクセスできる回線を制限することでセキュリティを高められる。

 しかもNGNは,QoSが保証されたネットワーク環境なので,ユーザーはストレスなくSaaSのサービスを使える。これらに加えて,NGN網のプレゼンス情報などと連携させたSaaSの拡張機能を利用することもできる。

 サーバー間や端末間で通信する「MtoM」もNGN上で加速しそうだ。業務プロセス改善のために企業ネットワークに散在するサーバー同士を連携させたり,商品のライフサイクルを管理するためにサーバーと商品の部品との間で頻繁にデータ通信をするとなると,「今までとはけたが違う通信量が必要になる」と,日立の平岩部長は指摘する。こうした大量の通信に耐え,サーバーや端末間同士でのデータ通信ができるネットワーク・インフラにNGNがなる可能性がある。

企業ユーザーが検討する条件は料金

 NGNの企業ネットワークへの導入を見越して,大手ITベンダー各社は2008年からNGN対応製品を次々に投入する計画である。企業がNGNに接続できる環境は早くも準備可能になる。しかし,企業ネットワークでNGNの導入が進むかどうかは,まず,NTT東西がNGNに利用しやすい料金を設定するかどうかにかかっている。「信頼性が高ければ高い料金を払ってもいいという企業は限定的ではないか。企業向けのサービスは,信頼性とセキュリティを備えたうえでリーズナブルな料金にすることが必要だろう」と,OKI(沖電気工業)の秋野吉郎執行役員ネットワークシステムカンパニープレジデントは話す(図1)。

図1●NGNに対する大手ベンダーのキーマンの視点
図1●NGNに対する大手ベンダーのキーマンの視点
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 企業ユーザーは,NGNの導入効果が投資コストに見合うかどうかを重視する。本誌アンケートでネットワーク関連製品/サービスに対して,安い通信料金と信頼性,セキュリティ向上を求める声が多かったことがそれを証明している。信頼性などを売りにするNGNでも,企業ユーザーは料金を選択のポイントにすることは言うまでもない。

 料金以外で企業のNGN導入のスピードを左右する要素は,企業向けメニューの充実度となるだろう。NECの今井エグゼクティブエキスパートは「データ通信のQoS保証がなく企業向けのサービスが少ないという,今まで公開されたサービス内容のままでは,企業に魅力ある提案ができない。できるだけ早く新機能やサービスが追加されることを期待する」と話す。

 NTT東西は企業向けの新たなメニューとして,広域イーサの県間通信やQoS保証型のVPNサービスの提供を予定している。ただし,広域イーサの県間通信は総務省に活用業務の認可を申請している段階。QoS保証型のVPNサービスについては具体的なサービスの品質やその提供時期を発表していない。

 2008年3月のサービス開始前には,まずNGNの料金が発表される。その後企業向けのサービスや利用可能な時期が明らかになれば,企業はNGNを社内ネットワークとして利用するかを本格的に評価できるようになる。