◆今回の注目NEWS◆

◎確定申告、地方自治体が危機感 電子申告が急増(MSN産経ニュース 、2008年1月6日)
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080106/fnc0801062031002-n1.htm

【ニュースの概要】国税庁は「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」の普及促進のため、電子申告を行った場合に所得税額を最大5000円控除する」特別措置を実行。これに伴い住基カードの発行申請が急増している。自治体によってはカード発行処理が追いつかないケースも出てきそうだという。


◆このNEWSのツボ◆

 MSN産経ニュースによると、住基カードの取得申請の急増に自治体が対応しきれないおそれがあるそうだ。国税庁が電子申告(所得税の確定申告)の利用者に対し、最大5000円の税額控除を行うとの方針を発表したことが理由のようである。個人が電子申告するためには、住基カード(に格納された公的個人認証)が必要であることが、取得申請の急増につながっているようだ。

 住基カードの発行実績は、2007年3月末で141万枚(総務省発表)。それが2007年9月が約3万6000件、10月が約5万3000件、集計途中の11月は7万件と急増してきている。年明けにカード取得申請がさらに集中した場合に自治体の処理が追いつかない可能性があるとのことである。(“急増”といっても、多く見積もっても月に十数万件程度と予想されるカード取得申請の増加に対応が追いつかない…というのはちょっと奇異な感じがするが、今回のコラムのテーマからは逸れるので、この話題は脇に置いておく)。

 住基カードの普及が“急増”したとしても、2007年末での普及枚数はせいぜい200万枚程度であろう。普及率としてはまだまだである。他方、国税庁はe-Taxの利用推進に2007年度、2008年度でそれぞれ100億円前後の予算を計上している。また、総務省も住基カードの利用推進に努めてきたところであり、これに地方自治体による普及策分を合わせれば住基ネット関係予算は3桁億円になるとの説もある。

 仮に上限5000円の税額控除を50万人の人が受けたとして、その減税額は25億円である。e-Taxや住基カードの普及のために使われてきた費用を思えば、それほど巨額とは思われない。しかも、長い目で見て考えれば、電子申告・電子納税の普及は間違いなく事務処理コストや徴税コストを引き下げていくはずである。であるなら、電子申告・電子納税をした人への控除額をさらに大胆に検討してもよいのではないか。

 高速道路での利用率が70%を超えたETCカードは、ETC利用者を対象とした様々な割引制度の導入(あるいはETC以外の割引制度の廃止)により利用が加速した。台数ベースでみるとETC搭載車の比率まだ20%程度であるが、高速道路をよく使う利用者、つまり、「メリットがコストと手間を上回ることが明らかである」と感じられる利用者層にはかなり普及が進んだと考えられる。また、この結果として高速道路の料金収受窓口関係の人件費もかなり削減できたのではないか。

 適切な普及促進インセンティブが付けられれば、無闇矢鱈と「普及促進予算」をつぎ込むよりも安い費用で電子行政サービスが普及し、結果としてコスト削減も実現する可能性が強い。今回のケース(上限5000円の税額控除)は、その結果を分析することで、「電子政府・電子自治体の推進」に当たって「どこに、どうお金を使うべきか」を考える際の重要な示唆を与えてくれているのではないだろうか。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。