IT(情報技術)は何のためにあるのか。バーガーキングの全店舗をサポートし、正しいビジネス判断をするのを助ける、という一言に尽きる。ITチームは日々、店舗のために何ができるのか、何をどう改善できるのかを自問している。社内でコーヒーを飲みながら議論を展開しているだけの、現実離れした「象牙の塔の住人」ではだめ。そんな意識が大切だ。ITに関するプロジェクトは100%がビジネスの現場に関連したものであり、現場を無視した投資は必要ない。

 2年前にCIO(最高情報責任者)に就任してから、ITを使ってビジネスの基礎を築くため、多くのことを手掛けてきた。データセンターを米国内で外注し、基幹・情報システムのソフト開発とメンテナンス、ヘルプデスクをインドにアウトソースした。将来的に世界中で統一した経営データを使えるようにするため、POS(販売時点情報管理)システムの規格統一も始めた。

 バーガーキングは65カ国で約1万1000店を経営するが、ばらばらのPOSを使っている。だから、世界中で「ワッパー(サイズの大きい同社のオリジナルバーガー)」がいくつ売れたのか、トマトやピクルスをいくつ使ったのか、というデータを翌日得ることはできない。ITチームは、世界のどこで売られていてもすべてのワッパーが同じ品質であることを確実にできるよう、ITでサポートする必要がある。

 そこで、昨年1月に統一規格の新しいPOSの導入ガイドラインを策定し、1万1000店に提示。必要な設備とベンダーを指定し、それにかかるコスト、それによって生じるメニュー価格の変化など関連の情報も網羅した。各店は来年1月から必ずガイドラインに沿った設備投資をしなくてはならない。

 幸いなことに、この1年半の間で2005店がガイドラインに沿って機器の導入を終えた。現時点では、メニュー改善や品質維持に関する経営判断を下すのに十分なクリティカルマス(必要な数量)には達していないため、収益改善には結びついていない。だがおそらく今後2年で、ワッパーがどの地域でどれだけ売れたか即座に知ることで、正しいメニューや品質向上の経営判断につながり、当社は大きく飛躍できるだろう。

 最も困難なのは、店舗の9割を占めるフランチャイズ契約店に、新POS導入の必要性を分かってもらうことだ。押し付けではなく、彼らの声も十分に聞く柔軟な姿勢が必要である。例えば3カ月前にある国のフランチャイズ店から、「自国のベンダーをガイドラインに入れてほしい」という電話があった。提案を却下せずにもう一度検討してから、あらためてそのベンダーを加えないと決めた。フランチャイズ店の経営者は、新しい機器を導入して、今後対峙するであろう大きなビジネスの変化を潜り抜けなくてはならない。だから、私が作ったガイドラインは、彼らの経営を改善するものであり、10年後も15年後もビジネスを正しい方向に導くものでなければならない。

 私の決断は、フランチャイズ経営者の店舗の将来を決め、彼の家族の生計を支えるものなのだ。私は、フランチャイズ経営者とバーガーキングの顧客に対して大きな責任を負う。大事なのは、技術そのものではなく、顧客とフランチャイズ、つまり現場のことを常に考えることだ。

新卒向けIT幹部候補生プログラムも創設

デヴィッド・ワイク氏
ラジ・ラワル氏
本社は米国フロリダ州マイアミ。2006年ニューヨーク証券取引所上場。06年度の売上高は20億4800万ドル、経常利益は2700万ドル。日本には1993年に一度進出しているが、出店数が当初目標に達しなかったり、マクドナルドとの激しい価格競争に巻き込まれたりして2001年に撤退。ロッテ(東京・新宿)や経営支援会社リヴァンプ(東京・港)と提携して今年6月に、日本市場に再進出。

 プロジェクトを正しく実行するためには、豊富な知識を持つうえ、コンスタントに仕事をこなせる人材が必要だ。しかし、全米で優秀なIT人材が不足し、確保が年々難しくなっている。そこで私は経営陣の了承を得て、「ITリーダーシップ・プログラム」という2年間の幹部候補生プログラムを創設した。対象は新卒5人で、大学での好成績に加えて、少しでも長く当社で勤務してもらえるように、本社のあるフロリダ州南部の出身者に限定している。午前中は社内のさまざまな部門で研修し、午後から夜まで技術とリーダーシップに関する授業を集中して受け、定期的な試験にもパスしなくてはならない厳しいプログラムだ。

 2年後には全員がラインの幹部職に就く。本社のITチームの約80人を率いることになる幹部候補生たちは、組織のモラルに大きな影響を持つだけでなく、ビジネス成功の鍵を握る。私はプログラム受講者がバーガーキングのビジネスによい影響と効果をもたらす人物になってほしいと願う。

ラジ・ラワル氏 米バーガーキング 上級副社長兼CIO
インド出身。米ゼネラル・エレクトリック(GE)に18年間勤務し、GEインフォメーション・サービスのCIOを務める。その後、米センダント・カー・レンタルのCIO、IT人材コンサルティング会社の米Axyaの社長を経て、2005年に米バーガーキングに入社。ITチームに向けてニューズレターを自ら毎月発行。