環境問題への意識が高まる中、データセンターでの消費電力を抑える手法として、直流電源が注目を集め始めた。交流と直流の変換に伴うロスの発生を減らす。直流電源に対応したサーバーも増えている。一方で、直流電源は取り扱いが難しいとする声もある。
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が、2008年秋までに東京都文京区に建設するデータセンターが話題になっている。1000ラック規模の大型データセンターであるにもかかわらず、サーバー関連の消費電力を同程度のセンターより最大30%削減すると発表したからだ。
CTCが消費電力の30%削減を可能とする根拠は、新データセンターで採用する直流電源に対応したサーバーと直流電源設備。一般的なデータセンターは交流電源を使い、UPS(無停電電源装置)周辺やサーバーなどで直流電源に変換して使っている。直流電源を使えば、変換ロスを削減できる(図)。加えて、変換時に発生する熱も減るため、空調への負担も軽減できる。CTCは現在、採用する直流電源対応サーバーを選定中で、機能や価格などをサーベイしている。
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図●直流電源型サーバーを使えば、データセンター内での交流-直流の変換ロスを減らせる [画像のクリックで拡大表示] |
直流電源を使うデータセンターは、これまでにもあった。だが、日本HP(ヒューレット・パッカード)と組みデータセンター構築事業を手掛けるNTTファシリティーズによれば、「国内での構築事例はまだ少ない」(営業部の中路敏昭氏)のが実情。米国では、「“グリーンIT”を求める機運の高まりを背景に、直流化を推進する動きが加速している」(同)という。
国内でも直流電源に対応したサーバーなどが増え始めた。7月に、デルが直流電源に対応したラック型サーバー「PowerEdge 2950」を発表。日本IBMは8月に、新ブレード・サーバー「BladeCenter HT」に、直流電源モデルを用意した。直流電源対応サーバーで先行した日本HPは今後、直流対応機を増やす計画だ。NECや富士通も、「これまでは特注品対応だったが、ニーズが拡大すれば積極的に展開する」という。直流電源対応サーバーの価格は、交流電源対応製品と大差ない。
一方で、データセンターの直流電源化に慎重な事業者もある。日立製作所がその1社。同社は10月1日、情報・通信グループアウトソーシング事業部内にデータセンターの省電力化を推進する組織「省エネセンタ推進部」を立ち上げた。だが同社は、「現在のところ、新たに建設するデータセンターに直流設備を導入する予定はない」という。
その理由として、直流電源取り扱いに注意が求められる運用面での不都合さを挙げる。直流専用設備にすると製品の選択肢が限られることもある。日立としては、仮想化によるサーバー統合や記憶装置の電源制御、ネットワーク機器の省電力化技術などを使うことで、5年後に消費電力の50%削減を目指す。
環境問題への取り組みが避けられない今、直流電源対応製品を使った消費電力削減策は選択肢ではある。CTCの新データセンターが、どれだけ消費電力を削減できるかは、試金石の1つになりそうだ。