顧客側から見ると,PMOははっきりとした成果物がなかったり,プロジェクトマネジャと役割が重なっていたりする場合がある。このため,何をやっているか分からない組織と見られることが多い。“存在理由”を疑われたPMOメンバーは,モチベーションを急速に失っていくだろう。そうなる前に,プロジェクトマネジャはPMOの必要性を顧客に訴え,PMOメンバーにスポットライトを当てる必要がある。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 本来,「PMOは目立てない組織」です。それゆえに,PMO経験者の中にはこんな経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

●顧客から「PMOは何をしているか分からない。必要なの?」と言われた。
●プロジェクトメンバーから「業務内容を知らないくせに,偉そうに命令ばかりするな」と言われた。

 私がPMOをしていた時に,実際に言われた言葉です。PMOの仕事は縁の下の力持ちのような役回りが多く,開発メンバーと比べれば普段はあまり目立てない存在です。開発メンバーなら,事前に成果物を決め,タスクを洗い出してWBS(Work Breakdown Structure)を作り,スケジュールに沿って着々とタスクをこなしていきます。開発メンバーは成果物や,やるべきことがはっきりしているため,顧客からも何をしているのかが見て分かります。

 しかし,PMOはどうでしょうか。PMOも進捗管理や品質管理などのルーティンワークを持っています。ただ,PMOのタスクは成果物を明確に決めることが難しかったり,プロジェクト内部へのタスクが多かったりします。顧客からはPMOが何をしているのか,よく見えないのが実情といえます。

身内にもPMOを理解していない人が少なくない

 現状では,PMOの役割や必要性を理解できている顧客はまだ少数派でしょう。まず「PMOの認知度が,まだそれほど高くない」という悲しい現実があります。加えて,今までPMOという組織を設置せずにプロジェクトを実施してきた顧客にとっては,「今回のプロジェクトではPMOを設置させてください」といきなり言われても,PMOを単なる“何でも屋さん”ぐらいにしか考えることができないのではないでしょうか。

 PMOを経験したことのないプロジェクトメンバーの中にも,同じような考えを持っている人が少なくありません。さらに悲惨なのは,プロジェクトマネジャがPMOを経験したことがなく,プロジェクトマネジャ自身がPMOを“便利屋さん”ぐらいにしか認識していない場合です。PMOは比較的最近認知されてきた組織であるため,PMOのような裏方の役割を経験しないままプロジェクトマネジャになった方も意外と多いのです。

「人から必要とされているか分からない」というPMOの不安

 プロジェクトでは,どうしても現場の開発メンバーにスポットライトが当たってしまいます。これは仕方がないことです。しかし,PMOをあまりにも軽視しすぎるプロジェクトがあるのも事実です。

 よくPMOのメンバーと飲みに行ったりすると,PMOメンバーからは必ずと言っていいほど,「今,プロジェクトがうまく回っているのは,俺たちPMOが影で支えているおかげだ!」「開発メンバーはちっとも分かっていない!」といった愚痴を聞きます。事務局を含めてPMO的な立場で仕事をしたことがある人なら,一度はこのような会話をメンバーとしたことがあると思います。

 人がモチベーションを保つ上で,「人から認められ,必要とされる」ことが非常に重要であることは共感していただけると思います。PMOの必要性を皆が理解して,プロジェクトでの存在価値を認めてあげないと,PMOメンバーは「人から認められず,必要とされているか分からない」と感じてしまい,モチベーションが下がってしまうのです。

プロジェクトマネジャの一言でPMOの能力は何倍にもなる

 ここで重要となってくるのが,プロジェクトマネジャやプロジェクト責任者のPMOに対する理解です。プロジェクトマネジャやプロジェクト責任者は,PMOがなぜ必要なのかという存在理由を,顧客はもちろんのこと,プロジェクトメンバーに対しても説明して理解させる義務があります。

 筆者も顧客の理解が得られず悩んだことがありました。そんな時,当時のプロジェクト責任者だった上司に相談したところ,上司が,顧客に対してPMOの重要性を時間をかけて説明してくれたことがありました。それ以後,プロジェクト内でのPMOの役割が認められ,協力が得られやすくなったのはもちろん,PMOメンバーのモチベーションが目に見えて高まりました。

 PMOの存在理由を周知する方法はいろいろあります。例えば,プロジェクトを開始するキックオフ・ミーティングで,プロジェクトマネジャやプロジェクト責任者がPMOの必要性を関係者全員に宣言すればよいでしょう。たったこれだけのことで,PMOの組織としての能力は何倍にもなります。メンバーやプロジェクトマネジャが気持ちよく業務ができる環境を作っていくのはPMOの重要なタスクの1つですが,その前に,PMOが気持ちよく働ける環境をプロジェクトマネジャやプロジェクト責任者が作ってあげてはいかがでしょうか。


後藤 年成(ごとう としなり)

 大学卒業後,ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後,2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp