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「情報システム調達研究会」報告

日経BPガバメントテクノロジー

第5回 情報システム・モデル取引・契約書のポイントを解説する

「情報システムに係る政府調達の基本方針」実務手引書との異同、論点も

2008/01/22

文:「情報システム調達研究会」事務局

 昨年10月17日に2007年度第1回目となる調達研究会オフ会(全体会)が開催された。「政府調達における契約の仕組み」に関して、経済産業省商務情報政策局 情報処理振興課の石川浩課長補佐にご説明いただいた。今回は、その概要を報告する。

 経済産業省では、情報サービス・ソフトウエア産業における契約慣行改善の取組みの一環として、2007年4月に「情報システム・モデル取引・契約書(受託開発(一部の企画を含む)、保守運用)<第一版>」(以下「モデル取引・契約書」)を公表した。

 公表したモデル取引・契約書は、ユーザー/ベンダー双方のプラットフォームとなるように、双方が議論した上で取りまとめたものである。また、このモデル取引・契約書は、大規模なシステムの開発受託を想定して作成したものであるが、今後は、中小規模のシステム開発受託やパッケージシステム導入等、異なるケースを念頭に置いたモデル取引・契約書を順次策定していく予定である。

モデル取引・契約書の主要論点--契約類型、再委託、損害賠償責任など

 モデル取引・契約書は、ユーザーおよびベンダー双方より数多くの論点が提出された。その中から、主要な論点について以下に概観する。

1.フェーズの分類と契約類型

 一般に情報システム開発等の委託に係る契約類型としては、「準委任」および「請負」が想定される。この2つの類型の間には、仕事の完遂義務やそれに付随する瑕疵担保責任といった法的性格に異同がある。また、請負については、その語感からユーザーに“丸投げ”意識を醸成させる温床となる恐れがある。以上を踏まえると、場面に応じて「準委任」と「請負」の両類型を適切に使い分けることが極めて重要になってくる。

 モデル取引・契約書では、システム化計画や要件定義等の「超上流」工程と一部のテストについては、ユーザーの主体的な参画が必要不可欠なことから準委任型とし、その後の設計・開発・テストについてはベンダーが主導的な役割を果たすことから請負型を基調とした(下図)

図●モデル取引・契約書におけるシステム構築の工程と契約類型
図のタイトル

2.再委託におけるユーザーの承認の要否

 再委託先の選定については、ユーザーの事前承諾を義務付けるか否かについて、責任関係の明確化の観点から意見が分かれるところである。
モデル取引・契約書では、2つの案を示した。ユーザーの事前承諾を必要とする「A案」と、ベンダーの裁量権の範囲として事前承諾を不要とする「B案」である。

 ただし、再委託先の選定は、プロジェクトの完遂や品質の担保に多大な影響を与える事項であることから、いずれの案に従う場合にもベンダーによる委託先を含めたプロジェクト体制の事前説明、再委託先の指定に係る責任範囲の明確化や、ユーザーの再委託先の拒否権の濫用防止等の措置が必要となる。

3.損害賠償責任

 通常、情報システムの信頼性向上の観点からは、両者間において損害賠償責任の負担を個別具体的に検討することが望ましいといえる。ユーザー/ベンダー双方が、リスクの性質・規模を的確に認識し、管理の方法を検討することが重要であるからだ。

 しかし、責任範囲を民法の原則に従い相当因果関係の範囲(通常損害および予見可能な特別事情から発生した特別損害)とするか、情報システムの特殊性を考慮し、責任範囲を限定するかについて、ユーザー/ベンダー間における考え方には、先鋭的な対立が見られるところである。

 以上を踏まえて、モデル取引・契約書では、損害賠償責任については、契約書締結前のプロポーザル・見積段階において、事前に提案・見積条件として説明することとした。また、具体的な損害賠償の上限額、瑕疵担保期間、債務不履行責任による損害賠償請求の期間については、個々の情報システムの特性等に応じて定められるものであるため、モデル取引・契約書においては、具体的な範囲・限度額・期間を個別に決定できるように記述している。

4.著作権の帰属

 開発したプログラムの著作権を、ベンダーに留保させるか、あるいは契約によりユーザーに移転させるかにつにても、ユーザーとベンダー間で先鋭的な対立が見られる。特に対立が顕著なのは、ベンダーに著作権を留保させた場合である。

 ベンダーが著作権を持つことで社会的な生産効率と情報システムの信頼性向上が見込まれるのが、一方で、ユーザーのノウハウ等情報が流出する危険性が危惧されるためである。

 以上を踏まえて、モデル取引・契約書では、ベンダーに全ての著作権を帰属させる「A案」、汎用的に利用が可能なプログラム等の著作権をベンダーへ、それ以外をユーザーに権利帰属させる「B案」、汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダーへ、それ以外を共有させる「C案」のいずれかを個別事情を勘案した上で選択できるようにしている。

 なお、いずれの案も、機密情報保持に関しては、別途秘密保持契約により担保すべきとの考えに立脚している。

5.第三者ソフトウエア・FOSSの利用

 第三者ソフトウエアおよびFOSS(フリー/オープンソース・ソフトウエア)の利用については、当該ソフトウエアそのものの瑕疵に起因するリスクおよびシステムとの組合せに起因するリスクが内在している。一般に、当該リスクを完全にコントロールすることは困難なため、当該ソフトウエア等の選定方法に応じて、ユーザーとベンダーで予めリスク分担をしておく必要がある。

 モデル取引・契約書では、ベンダーが第三者ソフトウエアないしFOSSを主体的に選定するA案と、ユーザーが主体的に選定するB案を提示し、場面に応じて適切な方策を選択可能な形とした。なお、ユーザーの責任において第三者ソフトウエアを導入し、問題が生じた場合については、ユーザーおよび第三者間での問題解決を基本としており、ベンダーへの過剰なリスクを排している。

「政府調達の基本方針」実務手引書との差異、論点

 2007年9月に総務省より、「『情報システムに係る政府調達の基本方針』実務手引書(弟2版)」(以下、「実務手引書」)が公表され、その中でも第5章におよび付属資料にて契約について言及されている。実務手引書は、モデル取引・契約書をベースとしているが、一部異なる部分もあることから、主要な差異または論点について以下に概括しておく。

1.システム機能ごとの分離調達

 モデル取引・契約書では、フェーズごとの分離発注を主に想定していたが、実務手引書では、機能ごとの分割調達(各業務システム、システム基盤等)を基調としている。

2.契約類型の定義

 モデル取引・契約書では、システム化構想、要件定義等の超上流フェーズについては、準委任型、開発・テスト等下流工程については請負型の契約として整理していたのに対し、実務手引書では、明確な契約類型が提示されていない。

3.取決め書による協働関係の担保

 機能ごとの分割調達においては、マルチベンダー体制によるプロジェクト運営が想定されるため、複数ベンダーの協働関係をいかに担保するかという点が重要となる。そこで、実務手引書では、関連ベンダーに「協働関係形成に係る取決め書」という特約書を締結させることで、複数ベンダーによる協働関係を担保しようとしている。

 ただし、プロジェクトにおける最初の受託ベンダーにとっては、取決め書締結時点では権利義務関係の相手方が不明であることから、そもそも当該取決め書にどれだけの法的拘束力があるかについて議論があり、今後の課題となっている。

4.再委託におけるユーザーの事前承諾

 実務手引書では、モデル取引・契約書と基本的には同様の整理がなされており、再委託を行う際には、ベンダーによるユーザーに対しての事前承諾を要求しているが、一定期間内に承諾を得られない場合における「見なし承諾」規定がないなど、ベンダーの負担が大きくなるような記述になっている。

 ただし、個人情報保護法による要請から、個人情報を取り扱う業務については再委託を認めないような運用を行っている団体もあり、今後は再委託そのもののをどう取り扱っていくかという問題について議論していく必要がある。

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