サッカーと言えばブラジル、ブラジルと言えばサッカーです。2006年に、カーニバルを見にリオデジャネイロを訪れた際、ブラジル・サッカーの聖地と言われるマラカナン・スタジアムに足を運びました。そこで現地のガイドさんから試合日程を聞いていたとき、不思議なことに気がつきました。大半の試合は、開始時間が午後3時だったのです。

 「午後3時」という時間は、中途半端だと思いませんか。実は世界的に、サッカーの昼間の試合は午後2時から3時にかけて始まるケースが多いようです。これには理由があります。

 サッカーに必要な身体能力は、動き回れる能力や握力(相手のユニフォームをつかむときに重要!)など様々な要素で構成されます。それらの能力を発揮できるレベルは、1日のなかで大きく変動します。ある研究結果によれば、サッカーに必要な主な能力はことごとく、ピークになる時間が午後2~3時に集中しています(表1)。

表1●サッカーに必要な身体能力が1日のうちで最高になる時間帯がある
身体能力 1日のうちで最高になる時間
1.握力
14:30
2.動き回れる能力
14:20
3.不安感が減少する時間
14:20
4.心拍数の増加が少ない時間
14:30
5.疲れを感じ難い
14:40
(Winget,CMらの報告から引用)

 サッカーは過酷なスポーツです。それだけに自ずと、身体能力が最も高まる時間帯に始めることになったのでしょう。

頭脳にもレベルがピークになる時間帯がある

 発揮できる能力のレベルが時間帯で変わるのは、1日のなかで身体にリズムが生まれているからです。この1日周期のリズムを、時間医学では「サーカジアン・リズム」と呼んでいます。

 サーカジアン・リズムが影響するのは、身体能力だけでありません。創造力や事務処理能力などの頭脳的な能力も同じく、ピークになる時間帯があるのです。

 その答えを言う前に、前サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏の話をしたいと思います。

 オシム氏は2007年11月に不幸にして脳梗塞になりました。報道によると、午前2時ごろに自宅の2階に上がろうとして倒れたそうです。なぜ彼は、夜中の午前2時過ぎまで起きていたのでしょうか?その訳を推理してみましょう。

 オシム氏が午前3時に就寝するとすれば、平均睡眠時間である7時間寝たとして、朝10時に起床することになります。人の脳の活動は、起床してから5時間後ごろにピークになります。するとオシム氏の脳の働きは、午後3時ごろにピークを迎えると計算できます。午後3時は、サッカーの試合の真っ最中です。そのとき最高に上手い指揮ができるというわけです。このことを彼は長い経験から知っていたのではないでしょうか。そこでわざわざ午前3時ごろに寝るように身体のリズムを整えていたのではないかと思います。

 さて、頭脳的な能力のサーカジアン・リズムに話を戻しましょう。午前6時に起きるとして、頭脳的な能力のピークは午前11時ごろです。その12時間後(午後11時)に最低になります。ですから会議や書類整理などの事務的な仕事は、午前11時ごろが最高にはかどります。それに対して,先に話したように身体的な活動は午後3時ごろがピークになりますから、外回りや力仕事はその時間帯が最も効率的です。

 スポーツでも仕事でも、根性や意欲だけでは限界があります。心身のリズムを上手く利用して、充実した1日を送ってください。

 次回は「要領よく(手際よく)働いてこそ、熟睡できる」というお話をしましょう。

田村 康二(たむら こうじ)
立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問 田村 康二氏 医師,医学博士。立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問。内科,循環器病,時間医学などが専門で,著書に「生体リズム健康法」(文藝春秋社),「健康安心ノート」(和泉書房)などがある