「3万人調査で分かったITエンジニアの実態」の第3回目では,ITエンジニアのキャリアに関する調査結果を報告しよう。自分自身のキャリア設計と照らし合わせながら読んで欲しい。

新人エンジニアは半数以上がアプリケーションスペシャリスト

 まずは,年齢層別の現在の職種を見てみよう。図1は,25歳以下,26~30歳,31~35歳,36~40歳,41~45歳,46歳以上という年齢層別に,現在職種の内訳を示したものである。

図1●年齢層ごとに見た職種構成(単位は%,カッコ内は回答者数)
図1●年齢層ごとに見た職種構成(単位は%,カッコ内は回答者数)

 入社して間もない25歳以下では,53.6%と半数以上が「アプリケーションスペシャリスト」。アプリケーションスペシャリストは,「ITスキル標準V2 2006」によれば,業種固有業務,汎用業務,アプリケーション開発に関する専門技術を活用し,業務上の課題解決にかかわるアプリケーションの設計,開発,構築,導入,テストおよび保守を実施し,構築したアプリケーションの品質(機能性,回復性,利便性等)に責任を持つ職種。いわゆるアプリケーションSEである。多くのエンジニアが,まずはアプリケーションSEからキャリアをスタートすることが分かる。

 25歳以下では半数以上を占めるアプリケーションスペシャリストだが,26~30歳で48.1%,31~35歳で40.4%,36~40歳で32.9%,41~45歳で25.9%,46歳以上で18.3%と,年齢が上がるごとにその割合は徐々に低下していく。

 アプリケーションスペシャリストと同様,「ソフトウェアデベロップメント」も年齢が上がるごとに割合が低下する。ソフトウェアデベロップメントは,ITスキル標準V2 2006によれば,ソフトウエア製品の企画,仕様決定,設計,開発を実施する職種だが,コーディングを担当するプログラマも,現在職種としてこの職種を選んでいると思われる。25歳以下では11.8%がソフトウェアデベロップメントと答えているが,26~30歳で10.8%,31~35歳で7.9%,36~40歳で6.9%と,年齢とともに割合は減っていく。

 逆に,年齢とともに割合が増えるのが,「プロジェクトマネジメント」だ。25歳以下では6.5%,26歳~30歳では8.2%にすぎないが,31~35歳で14.4%に急増する。入社して10年くらいが経過したころから,リーダーとしてプロジェクトやチームを任されることが増えるからだろう。プロジェクトマネジメントの割合は,36~40歳で22.9%,41~45歳で31.1%,46歳以上では33.3%に増える。41歳以上では最も多い職種である。

 では,技術的な専門家で,高性能,高品質のシステム作りには欠かせない「ITスペシャリスト」,ITエンジニアに人気が高い「コンサルタント」,ますます重要性が増す「ITアーキテクト」はどうだろうか。ITスペシャリストとは,ITスキル標準V2 2006によれば,顧客の環境に最適なシステム基盤の設計,構築,導入を実施し,構築したシステム基盤の非機能要件(性能,回復性,可用性など)に責任を持つ職種。いわゆるインフラ系のSEである。コンサルタントは,カウンセリング,提言,助言を通じて,顧客のビジネス戦略やビジョンの実現,課題解決に貢献し,提言がもたらす価値や効果,顧客満足度,実現可能性などに責任を持つ職種。ITアーキテクトは,顧客のビジネス戦略を実現するために情報システム全体の品質を保ったITアーキテクチャを設計する職種である。

 ITスペシャリストの割合は,25歳以下では10.9%だが,26歳~30歳で13.9%に増えた後は,40歳までその割合はほぼ変わらない(31~35歳で13.8%,36~40歳で13.4%)。20歳代後半にITスペシャリストの道を選んだエンジニアは,そのまま40歳くらいまで,その道を極めることが多いようだ。

 いつの時代もプロジェクト・マネジャーと並んで人気が高いコンサルタントは,年齢が高くなるとともに割合は増えるものの,46歳以上でも7.2%と1割に満たない。相変わらず「狭き門」となっている。システム構築プロジェクトの「技術的なリーダー」とも言えるITアーキテクトも,全年齢層にわたって約5%以下と少ない。こちらは「狭き門」というよりは,「ITアーキテクト」という職種がまだ確立されていないことが原因だろう。

理想と現実の差が大きい「コンサルタント」

 次に年齢層ごとに,将来どんな職種を希望しているのかを見てみよう。図2は,年齢層別に将来希望職種の割合を示したものである。

図2●年齢層ごとに見た「将来希望する職種」の構成比(単位は%,カッコ内は回答者数)
図2●年齢層ごとに見た「将来希望する職種」の構成比(単位は%,カッコ内は回答者数)

 ある程度の経験を積んだ26歳からベテランにさしかかる40歳までの年齢層では,職種の人気ランキングは,1位プロジェクトマネジメント,2位アプリケーションスペシャリスト,3位ITスペシャリスト,4位コンサルタントという結果になった。

 ベテラン・エンジニアと言える41歳以上では,1位のプロジェクトマネジメントは変わらないが,コンサルタントが2位に上がる(3位がアプリケーションスペシャリスト,4位がITスペシャリスト)。ベテランになればなるほど,コンサルタント指向が強くなるようだ。

 システム構築プロジェクトを成功に導くためには,プロジェクト・マネジャーと同じくらい重要なITアーキテクトについては,全年齢層にわたって,将来希望職種として挙げたのは10%に満たない。ITアーキテクトに対する認知度がまだまだ不足していることの表れと言えるだろう。

 現在職種の割合(図1)と将来希望職種の割合(図2)で最も差が大きいのは,つまり「現実」と「理想」の落差が大きいのは,コンサルタントである。現在職種がコンサルタントと答えた割合は,将来希望職種としてコンサルタントを挙げている割合よりもはるかに低い。