東京ガスの鏑木正常務執行役員IT本部長
東京ガスの鏑木正常務執行役員IT本部長

 東京ガスは2006年4月に「IT本部」を設立し、本社IT活用推進部の50人とシステム子会社ティージー情報ネットワーク(TGアイネット)の550人を統合した。CIOに相当する初代のIT本部長に就任したのが鏑木正常務執行役員だ。

 「入社以来営業一筋でITは門外漢」と話す鏑木氏だが、就任以後、システム担当者の仕事のやり方や、IT活用推進の仕組み作りに積極的に取り組んできた。ITに関するあらゆる相談を受ける担当者を利用部門に配置する「アカウントマネジャー制度」を作ったり、顧客すなわち利用部門の満足度をTGアイネットの評価に反映させる「業績評価システム」を導入したり、基本計画、要件定義、設計、開発などの各フェーズでIT活用推進部が第三者の視点でレビューする「プロセスレビュー」を導入したりといったことだ。

 こうした仕組み、組織面の改革に加え、鏑木氏が重視したのはシステム部員の意識改革だ。「IT本部の部員は論理的思考力が高い一方で、コミュニケーションを取って人間関係を構築していく点で淡白な傾向があると感じた」という。そこで鏑木氏は、1年かけて約600人の部員全員との「対話」を実行する。部員を5、6人ずつの約90グループに分け、それぞれと3時間ずつ話し合う場を持った。

 最初は「マネジメントに望むこと」などを自由に話してもらったが、不満や意見は1時間もあれば出尽くす。残りの2時間で鏑木氏が行ったのは「人間関係構築のロールプレイング」だった。自らが講師役を務め、あいさつの仕方から始まって、聞き方や話し方、アピールの方法などを実践しながら、「どうしたら『お客様』、すなわち利用部門に良い印象を持ってもらえるか」を一緒に考えたという。

 もう1つ、重視したのが部長やマネジャーのマネジメント力の向上だ。「上司が自分のことをケアしてくれていると実感できる時、部下は頑張れる」という持論から、部下に対する「声かけ」を徹底させた。「部下を持った人は、朝出社したら自分から声をかけること。相手が席に着く前に、『昨日あの会議どうなった?あの人なんて言ってた?俺のやれることある?』とどんどん話しかける。仕事の話題がなければスポーツでも雑談でもいい。一番駄目なのは報告連絡相談を『待つ』こと。メールだけで済ませるのも駄目。管理職の仕事は、部下を管理することではなく、部下が困っていることを一緒に解決してあげること」と繰り返し説いた。

 1年半たって、IT本部の職場に「にぎやかな」雰囲気が醸成されつつある。仕事上で困ることがあると、「誰かいい知恵ない?」と周囲に気軽に話しかけるようになってきた。営業出身の「陽性」な個性がIT本部の風土を変えた。利用部門のIT本部に対する顧客満足度調査でも、「頼みやすくなった」「相談しやすくなった」という評価が増えてきたという。

Profile of CIO

◆ストレス解消法
・中学生からフルートを吹きはじめ、一時はプロとしてやっていく決心をしたこともありましたが今は趣味として楽しんでいます。東京ガス管弦楽団の団長兼フルート奏者として定期演奏会(2008年はブラームスの交響曲第1番をメーンとしたプログラム)や様々なイベントで演奏しています。

 またクラシック音楽の鑑賞も大好きで様々な演奏会に出かけるほか、自宅のオーディオルームでレコード・CDの演奏を楽しんでいます。