企業が提供する様々なサービスの中でも,アフターサービスは最も重要だと筆者は考える。断言するが,製品の機能が競合他社に比べて多少劣っていても,保守サービスさえしっかりしていれば顧客は大きな満足感を得るものだ。多くの顧客は,機能が豊富で最先端技術を搭載した製品を手に入れることよりも,めったに故障せず安心して使える製品を手に入れることや,万一故障しても迅速で的確な保守サービスを受けられることを求めているのである。

 数カ月前,筆者はあるデジタル家電を購入した。大手メーカーの売れ筋製品であり,機能面では考え得るユーザー・ニーズをほとんど満たしている,充実した製品だった。実は,筆者にはそれほど多くの機能は必要なかったし,その製品には故障が多いという悪いうわさもあったのだが,筆者がどうしても使いたい機能を備えていたので購入を決断した。実際,その製品は快適に動作したので筆者は大いに満足していた。

 しかし約1カ月前に悪夢は起きた。その製品がうわさ通り故障したのだ。さっそくサービスセンターに電話したが,全然つながらない。数日後にやっと電話がつながって出張修理を頼むと,1週間後になると言う。1週間後にやって来た修理担当者は,その場で修理するのは不可能だと言い残して,その製品を持ち帰っていった。しかも,交換部品の在庫が切れているので時間がかかると言う。結局1カ月たった今も製品は手元に戻ってきていない。そのメーカーに対する信頼度は,もはや限りなくゼロである。

 複雑で高度なデジタル家電と単純には比較できないが,筆者が使っているテレビは購入後十数年になるというのに,1度も故障したことがない。筆者は最近パソコンを買い換えたが,それまで仕事で毎日ほぼ1日中使用していた製品は5年間故障しなかった。当然,買い換えた新しいパソコンも同じメーカーの製品である。競合製品に比べて高価だったが,信頼性の高さを優先したのだ。

 製品の信頼性やアフターサービスによって評価が決まるのは,システム開発の世界でも全く同じである。ITベンダーは,ともすれば新しいシステムの開発に精を出すあまり,既存システムの保守をおざなりにする傾向がある。保守要員や運用管理要員の待遇が開発要員に比べて低いことにも,それが表れている。

 しかし,ITベンダーのブランドを高めるうえで本当に重要なのは,システムの信頼性や保守サービスなのである。いかに最先端の技術を採用したシステムでも,バグが多かったり,バグへの対応が遅い企業のブランドは地に墜ちる。逆に,派手さはなくとも堅実な保守を心がけていれば,その企業のブランドに対する評価は必ず高まり,「リピーター」が増える。ファンを獲得する早道は,決して新しい機能を提供することではない。

 特に現代社会では,電子掲示板などに「A社の保守サービスはひどい」などと書かれただけで,そのメーカーは新規顧客から敬遠されかねない。一昔前と違い,いったん顧客の不評を買うと,命取りになる可能性さえある。そういう時代だからこそ,何よりも保守を大事にしてほしい。

 筆者がトラブルシューターだった当時から,保守要員の待遇は概して低かった。筆者は障害対応に楽しく取り組んでいたので気にしなかったが,世の中,そんな変わり者ばかりではない。システムも含めてモノづくりに携わる企業は,保守の重要性を再認識し,保守要員を正当に評価してモチベーションを高めるべきである。

 いまだ手元に戻らないデジタル家電に思いをはせると,怒りに唇が震える。2度とそのメーカーの製品は買わんぞと固く心に誓う。ぞんざいな保守サービスを受けたユーザー企業の担当者も同じ気持ちに違いない。

岩脇 一喜(いわわき かずき)
1961年生まれ。大阪外国語大学英語科卒業後,富士銀行に入行。99年まで在職。在職中は国際金融業務を支援するシステムの開発・保守に従事。現在はフリーの翻訳家・ライター。2004年4月に「SEの処世術」(洋泉社)を上梓。そのほかの著書に「勝ち組SE・負け組SE」(同),「SEは今夜も眠れない」(同)。近著は「それでも素晴らしいSEの世界」(日経BP社)