日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は2007年12月,「IPv4アドレス在庫枯渇問題に関する検討報告書(第一次)」を公開した。この報告書でJPNICは,2010年にIPv4アドレスが枯渇することを再認識し,その対応策としてIPv6利用を推進する方針を明確にした。

 2010年後半にIPv4アドレスは在庫がなくなる--。「IPv4アドレス在庫枯渇問題に関する検討報告書」は,現在のインターネットで使用されているIPv4アドレスが数年以内に枯渇するといわれている問題について,JPNICが独自に調査したものである。JPNICのWebサイトからPDFデータとしてダウンロードできる。

 IPv4アドレスの枯渇問題は以前からたびたび指摘されてきた。代表例がAPNIC(アジア太平洋ネットワーク・インフォメーション・センター)のチーフ・サイエンティストであるジェフ・ヒューストン氏による枯渇時期予測である。ヒューストン氏の予測によれば,インターネットで使われているIPv4アドレスは年々枯渇スピードが高まり,2010~2011年にIPv4アドレスの在庫がなくなる。

 ただ,同氏の予測は過去の消費動向を基にしたもので,需要はあまり加味されていなかった。そこでJPNICは,各種経済指標を基に需要から枯渇時期を予測。2010年後半にIPv4アドレスが枯渇する可能性が高いと結論付けた(図1)。ヒューストン氏の予測より1年程度早く在庫がなくなるという試算である。

図1●JPNICでは2010年にIPv4アドレスが枯渇する可能性があると予測
図1●JPNICでは2010年にIPv4アドレスが枯渇する可能性があると予測
各種経済指標を基に需要から枯渇時期を予測した。グラフはJPNICの説明資料から引用。
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 この点についてJPNICの前村昌紀IP事業部部長は,「今回の予測はあくまで需要を基にしたもの。それよりも早くなるかもしれないし,遅くなる可能性もある」と説明。報告書を,ヒューストン氏による予測結果の再確認したものと位置付けている。

枯渇対応策としてIPv6を積極推進

 この報告書にはもう一つ興味深い点がある。JPNICがIPv4アドレス枯渇への対策として「IPv6の普及推進に関する検討」を第一に挙げ,積極的に導入を推進していく姿勢を打ち出したことである。そもそもIPv6はIPv4が抱える問題点の解決策として生まれたものだが,JPNICではあくまでもいくつかの選択肢の一つに位置付けていた。

 JPNICがIPv6推進の姿勢を明確にしたことで,今後ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)などではIPv6採用が進む可能性がある。ただIPv6は,IPv4アドレス枯渇対応策として即効性があるわけではない。エンドユーザーの環境やユーザーが普段利用するWebサイトがIPv6に対応するまではIPv6とIPv4のデュアル・スタック環境が前提になる。また企業やエンドユーザーは,機器やアプリケーションをIPv6に対応させるための手間やコストを強いられる。ユーザーのIPv6移行は容易には進みそうもない。

 IPv6導入が進むかどうかによらず,IPv4アドレスの枯渇は避けられそうにない。にもかかわらず,今のインターネットの利便性を損なわずに済む抜本的な解決策は見当たらない。“期限”が刻一刻と迫る中で,IPv4アドレスの枯渇問題やIPv6の議論には今後さらに注目が集まりそうだ。