携帯電話は,固定電話に代わる基本的な通信手段として,世界中で爆発的に普及している。固定電話が住戸単位で契約されるのに対し,携帯電話は個人単位となる。一人で複数の携帯電話端末を持つユーザーも少なくない。

 携帯電話の普及率を見ると,全般的に固定電話よりも高い(図1)。100人当たりの携帯電話端末数が100台を超えている国・地域もある。シンガポール,香港,アラブ首長国連邦,イスラエル,アイルランド,イタリア,英国,チェコ,ノルウェーである。これらの国・地域では,一人ひとりに携帯端末が行き渡り,2台目の端末を持つのが当たり前という状況だ。フィリピン,モンゴル,ケニアなど,通信インフラがまだ整っていない国でも,自国の固定電話の普及率に比べると,携帯電話の普及率が圧倒的に高い。

図1●携帯電話の普及率
図1●携帯電話の普及率
日本ITU協会の「World ICT Visual Data Book 2007」のデータから作成。100人当たりの端末台数が100台を超えている国もあり,固定電話に比べて普及率が高い。
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 また,普及率が低くても増加のペースは速い。例えばインドでは携帯電話の普及率は2007年10月末時点で約20%だが,毎月800万加入のペースで伸びている。

 携帯電話の通信方式は,発展の段階によって「世代」に分けられる。

 第1世代(1G)はアナログ方式で実現された初期の携帯電話システム。第2世代(2G)は,ディジタル化によって周波数帯域の利用効率を引き上げた携帯電話システムである。第3世代(3G)は,「CDMA」という技術をベースにした最新の携帯電話システムだ。

 1G携帯電話は,ごく一部でまだ利用しているところもあるが,周波数帯域の利用効率が悪いため,ほとんどの国・地域で廃止されている。現在,世界中で主に利用されているのが,2G携帯電話である。3G携帯電話は,世界各国・地域が導入を進めている最中で,本格的な普及はこれからだ。

世界を席巻するGSM

 今,世界で最も広く利用されているのは,2G携帯電話の一種である「GSM」と呼ばれる方式だ。

 GSMは,ヨーロッパ諸国が共同で開発した携帯電話システムである。1G携帯電話は各国で方式がバラバラだったために国境を越えると使えなくなった。それを反省し,ヨーロッパ全土で共通に使えることを目指して開発されたのがGSMである。GSMは,ヨーロッパのほか,世界のほとんどの国・地域で採用され,携帯電話のデファクト・スタンダードになった(図2)。このため,GSM対応の携帯電話端末は,ほぼ世界中で使える。

図2●GSMが使われている国の分布
図2●GSMが使われている国の分布
GSM Associationのデータを基に作成した。ほとんどの国でGSMが利用されていることが分かる。主要国でGSMを採用していないのは日本と韓国だけである。
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 一方,日本国内では,2G携帯電話として「PDC」という方式が使われている。PDCは日本独自の方式で,日本国内だけで採用されている。このため,世界中で利用できるGSM端末が,日本では使えない。

 このほか,北米を中心に利用されている「cdmaOne」も2G携帯電話に分類される。これは,3G携帯電話に先駆けて,CDMA技術を採り入れた方式だ。この方式も,日本をはじめ,多くの国・地域で使われている。

 GSMは,既に“枯れた”技術であり,GSM携帯端末用のチップセットはわずか数米ドルまで下がっている。このため,機能を通話だけに限定した製品は,価格を非常に低く抑えられる。例えば,インドではわずか17米ドル(約1800円)という価格で販売されている製品もある。その一方,カメラや動画再生機能を備え,GSMの高速通信仕様である「GPRS」や「EDGE」をサポートした端末は,200米ドル(約2万2000円)以上もする。