NTTドコモの「905iシリーズ」の販売が好調だ。HSDPAやワンセグなど多くの機能を搭載する点と,少額の頭金で端末を購入できる「バリューコース」の存在が人気の理由のようだ。2006年10月のモバイル番号ポータビリティ(MNP)開始以来,“一人負け”と言われてきたNTTドコモだが,本格的な攻勢に出ている。

 ここ1年,加入者純増数や転入数でKDDIやソフトバンクモバイルの後塵を拝してきたNTTドコモだが,ようやく挽回の兆しが見え始めた。

 NTTドコモが2007年11月26日から順次発売したFOMAの新機種「905iシリーズ」の販売が好調だ。「11月26日の発売から1週間の販売台数は,(2007年夏商戦向けの)904iシリーズのときの1.5倍」(NTTドコモ)だという。NTTドコモの発表によれば,905iシリーズ以降に適用される新料金プラン「バリューコース」の契約者数が2007年12月16日時点で100万人を突破した。「905iの購入者のうち9割がバリューコースを選択している」(NTTドコモ)ので,905iシリーズの販売台数は12月中旬時点でざっと111万台以上と推測できる。

表1●家電量販店における携帯電話端末の販売ランキング
期間は2007年11月26日~12月2日。日経BP・GfK SalesWeek3200調べ。
1位 P905i NTTドコモ
2位 SH905i NTTドコモ
3位 N905i NTTドコモ
4位 D905i NTTドコモ
5位 INFOBAR2 au(KDDI)

 店頭での売れ行きも905iシリーズの好調さを示している(写真1)。日経BP・GfK SalesWeek3200が実施した2007年11月26日~12月2日における携帯電話端末の販売ランキング調査では,1位~4位を905iシリーズが占めた(表1)。特に1位の「P905i」(パナソニックモバイルコミュニケーションズ製)は優れた画像処理機能が人気を呼び,2007年12月中旬時点で品切れの販売店が続出した。


写真1●販売が好調の905iシリーズ
写真1●販売が好調の905iシリーズ
写真は東京都渋谷区のビックカメラ渋谷東口店。

買いやすさと豊富な機能で人気

 905iシリーズの販売が好調な理由について,ある販売代理店は「割賦で少額の頭金で買えるからか,905iの機能が良いからか,あるいはその両方か」と推測している。

 具体的には,前述の新販売プランであるバリューコースを利用すれば,5万円以上する端末を12カ月(月々4200円)または24カ月(月々2100円)の分割払いで購入可能だ。店舗によって異なるが,ある家電量販店では新規契約や,前機種を12カ月以上使った上での機種変更であれば頭金は0円。これまで新機種を購入する場合は,最初に数万円必要だったが,新販売プランで購入の心理的ハードルは下がった。実際,「903i以前のFOMAから905iへ乗り換える人が多い」(販売代理店)という。

 買い方だけでなく,905iシリーズは多機能と高性能も売りにしている。まず,全機種がパケット通信速度を高速化したW-CDMAの拡張仕様であるHSDPA(high speed downlink packet access)に対応。下り最大3.2Mビット/秒の伝送速度を実現した。編集部では「F905i」(富士通製,写真2)と「N905iμ」(NEC製,写真3)を入手し,実際に使ってみたところ,例えば携帯電話向けの動画投稿サイト「ニコニコ動画モバイル」も快適に視聴できた。

写真2●905iシリーズ10機種中の8機種がワンセグを内蔵   写真3●ワンセグを内蔵しないNEC製「N905iμ」
写真2●905iシリーズ10機種中の8機種がワンセグを内蔵
写真はワンセグ受信中の富士通製「F905i」。ディスプレイを横に回転できる。
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  写真3●ワンセグを内蔵しないNEC製「N905iμ」
厚さは12.9mm。NTTドコモの90Xiシリーズ中で最も薄い。
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 905iシリーズは10機種中8機種がW-CDMAだけでなくGSM方式も採用する。GSMは世界で最も広く使われている第2世代携帯電話の方式。GSM対応の905iシリーズは,154カ国で国際ローミング・サービスを利用できる。

 さらに,8機種が地上デジタル放送の「ワンセグ」受信に対応。P905iやF905iはワンセグを見やすいように,ディスプレイを横に回転できる機構も盛り込んだ。また,N905iμはワンセグには対応していないが,90Xiシリーズ最薄の厚さ12.9mmを実現している。

地図や翻訳サービスを活用できる

 905iシリーズは,単に多機能・高性能なだけでなく,実際にこれらを生かすアプリケーションが充実しているのも特徴だ。例えば,HSDPA対応により,地図情報サービスやGPS(全地球測位システム)を本格的に活用できる。

 GPS自体は,2007年4月に義務化された携帯電話からの緊急通報位置通知に対応するため,前機種の904iシリーズも搭載する。ただし,地図情報サービスは大量のデータ通信を必要とするので,384kビット/秒のW-CDMAでは快適に使えるとは言い難かった。

 905iシリーズは8機種がGPSを内蔵し,全機種がゼンリンデータコムの地図情報サービスのiアプリ「地図アプリ」をプリインストールする(写真4)。地図アプリは,パケット通信料以外は90日間無料で使える。90日経過後は一部機能が有料になる。料金は月額315円である。

写真4●GPSと連動する地図サービスが充実
写真4●GPSと連動する地図サービスが充実
パケット通信料金は発生するが,基本的なサービスは無料で使える。
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 N905iμで地図アプリを利用してみたが,地図のスクロールや拡大縮小は滑らかで,ストレスを感じずに使えるレベルである。地図アプリ自体も高機能で,GPSと連動して自分の周辺の地図を表示できるほか,店舗情報・住所の表示やナビゲーション,さらには「渋谷のラーメン屋」といった検索キーワードを音声入力できる機能などを搭載する。

 米グーグルが提供する「モバイルGoogleマップ」のiアプリ版も利用可能だ。モバイルGoogleマップは一部の機種でGPSに対応している。

 このほか,日本語または英語を音声認識し,英語または日本語に翻訳するiアプリも7機種が標準搭載する。雑音のある場所では正確に音声認識されないため,現時点で実用度は低いが,将来性を感じる機能ではある。

 今後もNTTドコモの“反撃”は続きそうだ。2008年4月にはHSDPAの最大伝送速度を7.2Mビット/秒に引き上げる予定である。また,1月からは705iシリーズ13機種の発売が控える。ワンセグ内蔵で厚さ12.8mmの「P705i」や3Gの折りたたみ型携帯として世界最薄の「N705iμ」など,様々な機種をそろえている。