個人や企業が利用する通信サービスは,国・地域や都市ごとに異なっている。日本国内にいる限りは,そのような違いに気付かないだろう。だが日本から一歩外に出た瞬間,日本と海外の通信事情の違いに驚くことが多い。

 企業活動のグローバル化が進んだ今,日本企業が海外に進出する機会はどんどん増え,訪れる人は多くなる一方である。それにもかかわらず,海外の通信事情は日本ではあまり知られていない。

 日経コミュニケーションの2007年12月15日号の特集では,世界を「アジア・オセアニア」,「中東・アフリカ」,「ヨーロッパ」,「北米・中南米」という四地域に分け,それぞれの地域で代表的な都市を取り上げた。アジア・オセアニアから13カ国・地域,18都市,中東・アフリカから7カ国,7都市,ヨーロッパから15カ国,15都市,北米・中南米から7カ国,10都市――合わせて42カ国・地域,50都市となる。各都市ごとに固定電話,携帯電話,インターネット接続の料金の目安と,主な通信事業者を表にまとめた。また,その都市の注目すべきポイントを紹介した。

 この記事では,50都市の状況を分析する前提となる海外の通信の“常識”を固定電話,携帯電話,ネット接続に分けて解説していく。

普及に差がある固定電話

図1●固定電話回線の増減率
図1●固定電話回線の増減率
日本ITU協会の「World ICT Visual Data Book 2007」のデータから作成した。

 固定電話は,最も基本的な通信インフラとして,古くから使われてきた。しかし,すべての国や地域で同じように整備されてきたわけではない。各国・地域で普及状況に差がある(図1,図2)。

 特にアジア・オセアニアや中東・アフリカでは,国ごとに大きなばらつきがある。100人当たりの固定電話回線数で見ると,日本,オーストラリア,韓国,シンガポール,台湾,香港,イスラエルは40回線を超え,高い普及率を示している。その一方,インド,インドネシア,フィリピン,モンゴル,ケニアなどの普及率は低い。ただし,図2で示しているのは国・地域全体の平均値であり,本誌で取り上げた50都市では,固定電話を利用できると考えてよいだろう。


図2●固定電話の普及率
図2●固定電話の普及率
OECDの「OECD Communications Outlook 2007」のデータから作成した。
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 ヨーロッパは,全体的に普及率が高い。ほとんどの国で100人当たりの回線数が40回線を超える。比較的少ないチェコ,ハンガリー,ロシアでも30回線程度である。

 北米と中南米は対照的だ。カナダと米国が属する北米の普及率が高く,中南米の普及率は低い。ただし,本誌で取り上げた中南米の主要都市では,通信インフラが比較的整備されており,主要都市間の比較では北米と中南米で大きな差は見られない。

通話手段としての役割を終えつつある

 これまで重要な役割を果たしてきた固定電話だが,通話の手段としては,徐々に役割を終えようとしている。IP電話や携帯電話が固定電話に取って代わろうとしているからだ。メキシコのように固定電話回線数が増えている国もあるが,全体的な傾向としては減っている。特に,IP電話はブロードバンド接続とセットで提供されることが多いため,ブロードバンドの普及率の高い国で固定電話の減少が著しい。また,インドやアフリカ諸国のように固定電話があまり普及していない国では,敷設に大きなコストがかかる固定電話網を整備せず,初めから携帯電話を選択するというケースもある。

 既に固定電話網が敷設されているところでは,通話のための手段としてではなく,ブロードバンド回線として今後も長く使われることになるだろう。