前回に続き、日本版SOX法対応に関して、ITproや内部統制.jpの読者から寄せられた疑問や悩みにQ&A形式で回答していきます。今回は、決算期による日本版SOX法の適用開始時期の違いと、内部統制が有効に運用できていない場合の対処やペナルティに関する質問を取り上げます。

日本版SOX法は「2008年4月以降に始まる事業年度から適用」ですが、2月期決算の企業の場合は、どうなるのでしょうか?

A3:2月期決算の場合、09年3月に始まる事業年度から適用されます。2月期決算の企業は3月期決算の企業に比べて、約1年も長く準備期間を持てることになります。

 日本版SOX法は、内閣府令により「08年4月以降に始まる事業年度から適用開始」と定められています。3月期決算の企業の場合は、08年4月に始まる事業年度から、財務報告の適正性を確保するための内部統制の整備および運用が求められるわけです。

 一方、2月期決算の企業の場合、08年3月に始まる事業年度は「2008年4月以降に始まる」という条件に該当しないので、日本版SOX法は適用されません。09年3月からの事業年度が、日本版SOX法の適用初年度ということになります。

 同様に、「2008年4月以降に始まる」という条件に照らして考えれば、6月期決算の企業は08年7月に始まる事業年度から、12月決算の企業は09年1月に始まる事業年度から、それぞれ適用を受けます。

 ところで、「日本版SOX法」とは金融商品取引法が規定する内部統制報告制度のことですが、この金融商品取引法そのものは07年9月末から施行されています。昨秋から「投資信託の販売が難しくなった」といったニュースを見聞きした読者も多いと思いますが、それは金融商品取引法のためです。

 金融商品取引法のうち、日本版SOX法(内部統制報告制度)の部分が、内閣府令によって別途、「08年4月以降に始まる事業年度から」と適用時期が明示されました。長いか短いかは別にして、「日本版SOX法の準備期間を設ける」という考えから、猶予期間が設けられたのです。

3月期決算の企業が、2009年3月末の時点で内部統制を有効に運用できていない場合、どうすればよいのでしょうか?

A4:日本版SOX法の適用を受ける企業は、自社の内部統制の状態を報告する「内部統制報告書」の提出が義務付けられています。内部統制が有効に運用できていなくても、その旨を記述した「内部統制報告書」を提出しなければなりません

 日本版SOX法の“ゴール”は、「自社の内部統制は有効である」と経営者が評価し、その評価を、外部監査人が監査を通じて「正しい判断である」と認定することです。とはいえ、企業が適用初年度から“完璧に有効”という状態になるとは限りません。“問題がある”という場合も当然ありえます。

 日本版SOX法では、「問題がある」という状態は、「不備」と「重要な欠陥」の2つに分けて考えます。問題の程度が軽微である場合は「不備」、重大な場合は「重要な欠陥」です。不備や重要な欠陥の詳細は、金融庁企業会計審議会内部統制部会が作成した「基準」「実施基準」や、日本公認会計士協会が作成した「財務報告にかかる内部統制の監査に関する実務上の取扱い」で述べられています。

 「不備」があった場合でも、経営者は「内部統制が有効である」と判断することができます。不備が多い場合は、財務諸表に与える金額的な重要性を考慮して、「本当に内部統制が有効に機能しているか」を判断します。

 これに対して「重要な欠陥」があった場合は、経営者は「内部統制が有効である」と判断することはできません。経営者は内部統制報告書で、「当社の内部統制は有効でないため、財務報告が適正であると保証することはできない」という旨の記述をする必要があります。外部監査人は、経営者の「内部統制が有効でない」という判断が適正であるかどうかを監査します。

 理想的には、08年4月から始まる事業年度で、内部統制が有効に機能している状態がベストです。しかし、07年2月に内部統制の実務上の指針である「実施基準」が確定してから、適用開始まではわずか1年あまりしかありません。そのため、多くの企業が「当社の内部統制は完璧」という状態で08年4月からの事業年度を迎えることは難しい、という見方もあります。

内部統制が「有効でない」場合、罰則はあるのでしょうか?

A5:罰則はありません。ただし、株式市場の信頼を失う可能性はあります

 金融商品取引法で罰則が課されるのは、内部統制報告書に虚偽表示があった場合です。例えば、経営者が「重要な欠陥」に当たる証拠があったにもかかわらず、それを隠し、「内部統制が有効」と表明した場合が虚偽表示に当たります。

 金融商品取引法の罰則規定は、内部統制報告書に虚偽記載があった場合、経営者など財務報告の作成の責任者に対して「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または両方の罰則を科す」としています。

 内部統制報告書で経営者が「内部統制が有効でない」と判断し、外部監査人が「その判断が正しい」と認めた場合、罰則はありません。しかし、「内部統制が有効でない」と経営者が自ら表明した場合、株価が下がる、株主代表訴訟の対象となる、といったリスクは十分に考えられます。