PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を「コストセンター」だと思っているプロジェクトは,「プロジェクトマネジメントオフィス」という呼び名を止めるべきである。PMOは,開発/マネジメント・プロセスやコミュニケーションの無駄を省き,結果的に利益を生み出す責務を担っている。プロジェクトの生産性向上に寄与しない仕事には,手を出してはいけない。

田口正剛
マネジメントソリューションズ 取締役


 PMOの役割・責任については,これまでに繰り返し述べてきました。しかし,IT業界やプロジェクトマネジメントの世界で確固たるイメージや理想像が存在するかといえば,答えはノーです。PMBOKガイド(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)発祥の地である米国でも同じ状況です。

 プロジェクトメンバーもPMOに対していろいろなイメージを持っていることでしょう。あるチームリーダーは,PMOはコストセンターなのだから事務的な作業はすべてPMOにやってもらおうと思っていたり,チームの作業が逼迫してきた時,PMOが支援するのは当然だと思っていたりします。別のチームリーダーは,チーム間で調整が必要な課題など,2チームで話し合えば済むような課題もすべてPMOが解決をしてくれるものだと思っているかもしれません。例えば,次のような感じです。

PMO:「Aチームの課題の中に,『Bチームの方針が決まらないと成果物を作成できない』というものがありますね。この課題,もう1カ月もそのままの状態だけど,何かアクションを起こしている?」

Aチームリーダー:「あれっ,PMOは,チームをまたがる課題を解決してくれるのではないのですか?」

PMO:「もちろんそうだけど,チームをまたがるすべての課題を解決することはできません。PMOは全体の課題を把握し,そこで滞っている課題のテコ入れをするけど,チーム同士の打ち合せもしていない状況では支援できませんよ」

Aチームリーダー:「えっ? それなら,PMOって何のためにいるんですか?」

PMO:「……」

 プロジェクトにPMOを設置してみたものの,PMOは一体どんな役割・責任を担うべき組織なのか曖昧なままプロジェクトを推進してしまうと,上記のような問題が多発します。プロジェクトメンバー1人ひとりがPMOに対して異なるイメージを持っていると,PMOはメンバー全員の期待にはこたえられません。その結果,PMOに対してさまざまな不満が出てきます。一体,PMOはどうすべきでしょうか。

 PMOにとっては,ここがちょっとした“勝負どころ”です。PMOが強い信念を持っていないと,メンバーの不満を解消しようとして,本来のタスクではない作業にまで手を出したくなるでしょう。

 しかし,PMOは手を出すべきではありません。PMOに余裕がある状況なら許されそうに思われるかもしれませんが,そうではないのです。PMOが本来のタスクの範囲を超えて手助けすると,それを見たメンバーが「この仕事はPMOがやってくれる」と思うようになります。そしてPMOが忙しくなってきても,同じようにPMOのサポートを求めてくるでしょう。PMOは,プロジェクトの行方を左右するような重要な課題解決に取り組むかたわらで,優先順位がずっと低い仕事も進めなくてはなりません。こんな状況が続けば,PMOもプロジェクトも崩壊の危機にさらされてしまいます。

PMOの人件費 < プロジェクト全体の生産性向上

 本連載第1回の「事務局にあらず,庶務係にあらず」,第4回の「PMOは管理責任を負うのか?」でも述べた通り,PMOの役割は「プロジェクトの生産性を高めること」です。言い換えると「プロジェクトの状況を見える化し,無駄を取り除いて効率的にプロジェクト運営をしていくこと」となります。PMOは決して事務局や庶務係ではなく,コストセンターでもありません。プロジェクトに内在する無駄な工数を削減し,結果としてプロジェクトに利益をもたらす役割を担っています。

 「プロジェクトの予算が厳しいから,PMOは設置できない」と言うプロジェクトマネジャには,こう提案したいと考えています。「PMOを参画させれば,プロジェクト全体から無駄な工数を削減可能です。PMOがプロジェクトの生産性を高め,予算削減とスケジュール順守につながるからです」。

 例えば,チームリーダーが月に使っているマネジメント工数を全体の5割程度(1日稼働8時間・月160時間稼働の前提で80時間)だと仮定し,そのうちPMOがマネジメント・プロセスの改善(無駄取り)をすることによりリーダーのマネジメント工数を3割削減させた場合,毎月24時間の工数削減になります。リーダーの人数が増えるほど削減工数は大きくなるため,マネジメントの役割を担うリーダーが7人を超えたら,単純に1人分のPMOの工数が捻出可能となります。もちろん,無駄取りの効果はリーダーだけでなくメンバーにも影響してきますので,それ以上の効果が見込めるでしょう。