総務省は2007年12月21日に,2.5GHz帯の周波数を利用した次世代高速無線通信について,KDDIなど5社が出資するワイヤレスブロードバンド企画(WB企画)とウィルコムの2社に周波数を割り当てることを決めた。WB企画はモバイルWiMAX方式で,ウィルコムは次世代PHS方式で,それぞれ事業開始を目指す。今回から2回にわたり,次世代高速無線通信サービスへの参入を果たした2社の今後の課題を探る。


モバイルWiMaxサービスの利用イメージ
写真1●モバイルWiMAXサービスの利用イメージ
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 今回の周波数割り当てで注目されたのは,二つの参入枠を巡って4陣営が総務省から比較審査を受けたからだ。サービスの展開力や技術開発力、財務力といった多岐にわたる観点を基に「A++」から「B-」までの点数付けを行い,その結果を公表した。また事前に,一部の報道機関で“当確情報”などが飛び交ったことから,比較審査の過程で公開討論会も行われた。通信・放送の歴史上、こうした比較審査はまれに見るものだった。

 まず,産業論の観点でモバイルWiMAX(写真1)の事業性を俯瞰(ふかん)すると,行政は新サービスにおける端末や通信料金が低廉になることを重要視するだろう。WB企画の株主であるKDDIはこの数年間,米インテル陣営のWiMAX技術にフォーカスして,サービスの検証やチップコストの精査などを積極的に行ってきた経緯がある。その意味で,NTTドコモ-アッカ・ネットワークス陣営やソフトバンク-イー・アクセス陣営に対する先行メリットが生きたといえよう。総務省の本音は新規参入事業者よりも,より着実に技術開発と資本投下を行う事業者を優先する面もあったようだ。

 折しも比較審査中に,2GHz帯を利用して同様の高速無線通信サービスを提供する予定だったアイピーモバイルが経営破たんし,免許を総務省に返上した。この不祥事も,行政サイドに危機意識をもたらしたといえよう。また,イー・アクセス系の事業者として唯一同様の事業展開を行っているイー・モバイルも,加入者がようやく20万件に到達した状況にある。このことも,より一層綿密な比較審査をせざるを得ない事情につながったといえよう。


世界標準でいかに事業展開するか

12月21日に会見するWB企画の田中社長(中央)
写真2●12月21日に会見するWB企画の田中社長(中央)
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 いいかえるとWB企画は,世界のデファクトスタンダードに乗り,サービス開始時において世界で最も普及が見込まれるチップセットを搭載したデータカードなどを,いかにエンドユーザーまで安い価格で届け,人口が数万人程度の地方都市にも送信アンテナを張り巡らせられるかという大命題を突きつけられているといえる。EVDOなどの事業も併せてKDDIが「au」サービスで獲得している顧客の中から,300万件程度(法人が70%,個人が30%の比率か)のヘビーユーザーに新サービスを利用してもらい,事業を損益分岐に乗せるというのが,筆者の理解である。

 ここ1年,「着うた」の提供や米Googleとの提携,多機能端末の低廉化や多種類・機種の投入により,40代以下の消費者の認知度でKDDIの「au」はNTTドコモを逆転しつつある。この先には,インターネット接続が携帯電話と融和する形で普及するというシナリオがあり,KDDIがMVNO(移動通信再販事業者)となって,同社の携帯電話サービスとモバイルWiMAXサービスのセット料金を組むといった動きは十分想定できるだろう。

 もちろん,12月21日に東京都内で行われたWB企画の記者会見(写真2)で同社の田中孝司社長から,「MVNOを希望する者には,公平原則に基づいて話し合いをする」という趣旨の発言があった。WB企画の株主にはJR東日本や大和証券グループ本社、三菱東京フィナンシャル・グループ(MTFG)といった面々がそろう。増資戦略のほかにこういった異業種の株主が,新幹線内や店舗を通じた端末レンタルや旅行,金融解説番組,切符や商品の販売ポータルといったサービス支援に乗り出すのではなかろうか。


■変更履歴
2008年1月14日付「メディア時評」の記事中,ワイヤレスブロードバンド企画の略称は「YB企画」ではなく「WB企画」,アイピーモバイルが免許を返上した周波数は「2.5GHz帯」ではなく「2GHz帯」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/01/15/13:00]


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。