ユーザー企業からすれば、環境対策だけを目的に今すぐサーバーなどを入れ替えるということは、現時点では考えにくい。税制などもあり、数年間は利用する前提で導入している企業が多いからだ。場合によっては、業務プロセスやアプリケーションの変更を伴う可能性もある。サン・マイクロシステムズの関根俊夫エンタープライズ・サーバー技術本部長は、「システム再構築やリースアップのタイミングに、業務の効率化などの主目的に加え、環境対策という観点も踏まえる、というスタンスを取る企業が大多数だろう」とみる。

 しかし、ITコンサルティング会社、アイ・ティ・アール(ITR)の生熊清司シニア・アナリストは、「サーバー切り替えやデータセンターそのものの見直しは、中・長期的な取り組みが必要な対策。一方で、コストをかけず“今すぐ”できる短期的な取り組みもある。両方を実施することが必要だ」と指摘する(図3)。

図3●情報システム部門による環境対策は、いますぐ取り組めるものと、中・長期的に実施するものがある
図3●情報システム部門による環境対策は、いますぐ取り組めるものと、中・長期的に実施するものがある
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対策は省エネ製品導入だけではない

 IT機器の構築・運用を預かる情報システム部門が、まず着手すべきは、サーバー設置場所における省電力対策だ。APCジャパンの佐志田伸夫商品企画部担当部長は、「サーバー設置場所内での取り組みなら、情報システム部門だけで完結できる。業務部門に与える影響は最小限ですむ」と話す。

 短期的には、どんな対策が打てるのだろうか。その1つが、サーバーなどハードの数を無計画に増やさないこと。ITRの生熊シニア・アナリストによれば、「大企業ほど、システム性能が不足しているからといって、すぐに新しいサーバーやプロセサを購入する傾向がある」。

 だが、ハードの追加は早計だ。今後は、「サーバー台数を最小限に抑えられるように、既存資産の有効活用や、アプリケーションやデータベースのチューニングなどを、まず検討すべきだ」(同)という。サーバーの台数は少なければ少ないほど、自身の消費電力だけでなく、室内温度を下げる空調類の消費電力も下がる。

 起動するサーバー数を最小限にすることも、消費電力削減には大きな効果がある。特に「x86サーバーは、通常時のプロセサ負荷が低いものが多い。アプリケーションを同居させたり、仮想化ソフトを使って統合したりすることで、サーバー数は減らせる」(日本HP エンタープライズ ストレージ・サーバ統括本部の宮本義敬氏)。

 そもそも、サーバーごとの消費電力が把握できているだろうか。特に、一般のオフィス・ビル内にあるサーバー室や、執務スペースにあるサーバーなどは、オフィス全体の消費電力として測定されているため、個別の消費電力を算出するのは難しい。

 サーバーによっては使用電力量を記録可能な製品はある。そうした機能がないサーバーの場合は、UPS(無停電電源装置)や電力計測が可能な電源タップを利用すればよい。多くのUPSが使用電力を計測できるほか、APCジャパンなどが電力計測機能をもつ電源タップを製品化している。

空気の通り道を作る

 IT機器の省エネ対策では、それ自体の消費量だけでなく、空調機器などの消費電力がばかにならない。特にブレード・サーバーなど集積度が高いサーバーは発熱量が大きく、それだけ周辺温度も上昇しやすい。周囲の特定個所にできる熱だまりを解消するために空調の温度設定を下げると、空調機がさらに電力を消費するという悪循環に陥ってしまう。

 日本IBMの小池裕幸GTS・ITS事業 インフラストラクチャー・ソリューションズ事業部長によれば、「サーバー台数が増え、サーバー室の温度が上昇してしまい、室温をコントロールできなくなっているユーザー企業が増えている」。効率的にサーバー室内の温度を下げ、空調温度を高めに設定することがCO2削減につながる。

 室温対策を含め、サーバー室内の省エネ策をコンサルティングするサービスも増えている。NTTファシリティーズや日本IBM、日本HP、日立などが、温度の実態を調査・分析するサービスを提供する。サーバー室の現状を調査し、改善策を提案したり、サーバーを新規追加した際に室温がどう変化するかをシミュレーションしたりするメニューもある。

 空調の効率を高める策の基本は、空気の流れを一定方向にそろえることである(図4)。暖かい空気が流れる「ホット・アイル」と、冷たい空気が流れる「クール・アイル」を作り、空気を効率的に冷却できるようにする。

図4●ちょっとした工夫でサーバー室の使用電力は減らせる
図4●ちょっとした工夫でサーバー室の使用電力は減らせる
冷気を通す「クール・アイル」と、暖気を通す「ホット・アイル」を分けるのが基本。空気が効率的に流れるよう、ラックの配置やついたての設置などで最適化する

 そのために、データセンター内でラックの向きをそろえ、サーバーが排出する暖かい空気を一方向に集める。一般にサーバーは、前面から冷たい空気を取り込み、背面から暖かい空気を排出している。同じ列のラック内にサーバーの前面がそろっていないと、ホット・アイルから空気を採り入れることになってしまう。

 さらにサーバー室内の空気の流れは、些細なことで遮られる。その一例が、片隅に積み上げられたIT機器の段ボールや作業机、テープ装置など。これらは、空気の流れを妨げる可能性があるだけに、必要があれば別の場所に移す。さらに、「床面から室内に向けて、ラック内部で冷たい空気を通しているようなサーバー室では、床下のケーブル類を整理するだけでも、消費電力は変わってくる」(日本IBMの小池事業部長)という。