短期的取り組みで盲点になりがちなのが、クライアント・パソコンだ。消費電力を管理するという観点が、サーバー以上に欠けていたうえに、台数がサーバーより多いことから、やり方次第では大きな消費電力の削減効果が期待できる。

 電源を入れたままのパソコンは意外と電力を消費している。米マイクロソフトが06年に実施した調査では、インテル製Pentium4を搭載するパソコンと17インチ液晶モニターを組み合わせたWindows Vista搭載パソコンは、何も操作をしない状態で102.6ワットの電力を使っていた。

野放しのパソコンは削減余地が大

 クライアント・パソコンにおける最も基本的な省電力対策は、アイドル(操作待ち)状態の消費電力を抑えることである。具体的には、Windows OSが持つ「電源オプション」と呼ぶ電源管理機能をきちんと設定することだ。マイクロソフトの中川哲Windows本部プロダクトマネジメント部 部長は、「この機能を十分に利用しているユーザーは非常に少ない」と明かす。

 電源管理機能を使えば、モニターやHDDの電源をアイドル状態になって何分後に切るかや、パソコンをスタンバイ状態や休止状態に切り替えるタイミングを設定したりできる。スタンバイ状態では、使用中のデータをメモリー上に保存し消費電力が少なくなる。休止状態だと、データはHDDに保存され消費電力はさらに減る。

 先のマイクロソフトの調査によれば、電源管理機能を設定することで、アイドル時の消費電力は5.6ワットまで下がった。業界団体のClimate Saversコンピュータ・イニシアチブは、「モニターとHDDの電源は15分後以内に切ること、スタンバイ状態または休止状態への移行は30分後以内にすること」を推奨している。

 電源管理機能のほかに、例えば、スクリーン・セーバーの選び方も消費電力を左右する。最近は、多くの企業がセキュリティ対策の一環として、スクリーン・セーバーのパスワード機能を使い、離席時の情報漏洩を防止しているはずだ。だが、3次元CGや動画などを多用するスクリーン・セーバーは、プロセサの処理能力をより使うため、電力消費量が増える。どのスクリーン・セーバーを使うかまで徹底することが、省電力につながる。

電力消費の集中管理も可能に

 ただ、クライアントの省電力設定は、エンドユーザー任せになりがちだ。これに対し、電力管理機能などを集中管理する仕組みはある。1つは、ActiveDirectoryのポリシー・マネージャを使うこと。システム管理者が電源オプションの設定内容を指定し、ActiveDirectoryを使って各パソコンにポリシーを配布する。

 電源設定を集中管理するサードパティー製ツールもある。TCBテクノロジーズがこの10月に発売した米バーディアム製の「SURVEYOR」が、その1例(図5)。電源管理の状態を時間単位で変更することもできる。

図5●クライアント・パソコンの電力設定を集中管理できる省電力ツールも登場してきた
図5●クライアント・パソコンの電力設定を集中管理できる省電力ツールも登場してきた
画面は米バーディアム製の電力管理ツール「SURVEYOR」の例。システム管理者は、時間単位で電源設定を自動的に変更するよう指定できる

 例えば、午前0時から午前8時までと昼休みの時間帯は休止状態に、午後5時から午前0時まではユーザーが許可した場合だけアイドル状態にする、などをパソコン単位や、部門単位で指定する。NECなども電源設定管理ツールを開発中である。

 ただし、電源管理機能を使うと、復旧時に時間がかかるというデメリットもある。スタンバイ状態だと、データはメモリー上に保存するため、通常状態に復旧するまでの時間は短いものの、電源断などの不具合が生じるとデータが消失するリスクがある。一方、休止状態だとHDD上のデータが消失するリスクは小さくなるが、復旧時間は長くなる。

 この点をWindows Vistaは改善している。「ハイパー・スリープ」モードの導入である。これは、「スタンバイ状態と休止状態のいいとこ取りをしたもの」(マイクロソフトの中川部長)。デスクトップ・パソコンを例にとれば、使用中のデータをメモリーとハードディスクの両方に書き込む。復旧時はメモリーからデータを戻すことで時間を短縮し、電源断といったアクシデント時はHDDから復旧させる。

省電力対策のポリシー作成を

 サーバーなどのIT機器は今後、省電力対応が進むため、同等製品と比べれば、最新モデルほど電力消費量は小さくなるだろう。既存資産の運用を見直すと同時に、新規に購入する製品については、省電力の製品や環境配慮型の製品を選べばよい。

 しかし、省電力や環境配慮型の製品は、それが付加価値になるため、非対策製品と比べれば価格は高くなる。例えば、パソコンの電源効率を高めるためには高価な電源ユニットを使わざるを得ないこともある。富士通の田中氏は、「環境配慮型製品は通常製品より5%程度割高になる。これを敬遠するユーザーは少なくない」と話す。

 また、いくら省電力対策を進めても、業務部門が消費電力が大きいパソコンを自由に購入できたり、電源管理機能の設定などが野放図では、期待した効果を得られない。短期的、中・長期的それぞれの省エネ対策に対し、企業としてどう取り組むかの方針や基準をあらかじめ決めておく必要がある。一定の基準に沿った製品を優先して購入する、いわゆる「グリーン購入」の実践である。

 すでに官公庁は、01年4月に施行されたグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)に基づき、パソコンやOA機器を選定・購入することが義務付けられている。だが、グリーン購入を推進するNPO「グリーン購入ネットワーク」の深津学治 事務局次長によると、「IT機器に関してグリーン購入を実施している企業は、まだごく少数」という。

 種々の「環境ラベル」や、政府のグリーン購入基準、グリーン購入ネットワークがWeb上で公開する「パソコン購入ガイドライン」などを参考に、ユーザー企業も自身の“グリーン購入ポリシー”の確立が求められている。

乱立する環境ラベルが製品選択を難しく

 IT機器が環境に配慮していることを利用者に示すための「環境ラベル」が乱立している()。それぞれが異なる観点から環境配慮に優れているかどうかを示しているために、環境に配慮した製品を購入したいと考えている企業や消費者にとってはむしろ、製品選定を迷わせる遠因になっている。

図●クライアント・パソコンなどのIT機器が環境配慮製品であることを現す制度が多数存在する
図●クライアント・パソコンなどのIT機器が環境配慮製品であることを現す制度が多数存在する
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 さらに最近は、NECや日立製作所、富士通などのITベンダーが独自の環境ラベルを用意し始めた。ここでも独自の環境基準を設け、その条件を満たす自社製品に独自の環境ラベルを添付する。しかし、その基準の詳細は公表されておらず、ベンダーによっては、ほとんどの製品にラベルを張っているケースもある。

 これらの環境ラベルには、どれだけ環境に配慮されているのかの高低が分からないという欠点もある。基準を高いレベルで満たしている製品も、ギリギリの環境対策しか施していない製品も、同じラベルが添付され横並びになってしまうからだ。結局、第三者機関が付与している環境ラベルを含め、どの製品の環境対策が進んでいるのかの判断は下せない。

 環境ラベルの乱立していることについては、環境省も「利用者にとって分かりやすいとは言えない」とみている。そのため、環境に関する表示についてのガイドラインを作成し、2007年度内には公開する予定だ。表示内容が分かりやすいことと、他社製品との比較ができるような基準を考慮すること、などを求めていく。

 参考にするのが、06年10月から利用されている「統一省エネラベル」。エアコン、冷蔵庫、テレビを対象に、省エネ基準達成率を5つ星で表示したり、1年間の消費電気料金の目安などを記載している。ガイドラインが出れば、IT機器にも、同種のラベルが付くことになりそうだ。