まずは次の例文を見ていただきましょう。
トランザクションとはデータベースの基本的な機能のひとつであり,複数の処理をひとまとめにして処理を行なう機能のことを言う。トランザクションの開始処理から終了処理までの間に複数のデータ操作処理を行うと,それらはひとまとめに処理される。
要するにデータベースの勉強をすると必ず出てくる「トランザクション機能」について説明している文です。さて,これを図1のように図解したとします。
図1●トランザクション 原案 「違うものを違うように」見せていない図は,非常にわかりにくくなってしまう。 |
この,図1のような図解案は,これで良いと言えるでしょうか?
答えはNOです。あまり良くありません。きちんと「順番」がわかるように書かれているという点では良いのですが,その他の点で物足りないところがあります。何でしょうか?
問題は「違うものを違うように見せていない」というところです。
では,「違うもの」というのは,どれとどれが「違うもの」であるというのでしょう?まずはそれを少しの間自分で考えてみてから,この先を読み進めてください。
ヒントは,説明文の原文の中で「不自然に多用されている単語に注目」することです。
■同じ言葉を違う意味に使っていませんか?
この連載の前回記事中に,「同名多義語には特に要注意」というキャプションのついた図(第3回の図2)があったことを覚えていますか?実は,ドキュメントを書き慣れていない人が思いつくまま書き出した文章では,よくこの現象が見られます。つまり「同じ単語を違う意味に使っている」という失敗です。
わかっている人同士で会話をしているときにはあまり問題にならないのですが,文書でこれをやってしまうと,読者を非常に混乱させやすいのです。今回の説明文原文の中では,「処理」という単語がそれに該当します。
例えば,
複数の処理をひとまとめにして処理を行なう機能
というワンフレーズには「処理」が2回出てきています。この2回の「処理」は実は違うものを指していることに気がつくようにしましょう。つまり,こういうことです。
複数の処理:図1の中の「A口座・B口座の残高加減算」のような,実データを操作する命令のことを言う
ひとまとめにして処理:トランザクションの開始と終了のことを言う
「A口座・B口座の残高加減算」のほうは,「データベースに格納されているデータ」に変更を加える操作であって,「トランザクションの開始と終了」のほうは,その操作を「やるかやらないか」を制御する機能である,という2段構えの構造なのです。
であれば,図解もその「2段構え」がわかるように,「違うものは違うとわかるように」書かなければなりません。図1では単に4つの「処理」を順番に並べただけで「2段構え構造」が表現できていませんでした。