「企業における環境対策は今後、具体的な数値目標を掲げてCO2削減に取り組むなど、ますます強化されるはずだ。そこでは、総消費電力量を抑えるために、新しい情報システムの構築を断念しなければならないといったケースもでてくるだろう」―。

 野村総合研究所(NRI)でIT関連の環境問題に詳しい椎野孝雄理事は、環境問題が情報システムに与える影響を、こう指摘する。

 企業が取り組むべき課題として、環境問題はもう他人事ではない。地球の温暖化を防ぐために、2005年2月に発効した京都議定書において日本は、「基準年である1990年比で、エネルギー起源CO2を6%削減する」という目標を与えられている。

 しかし、環境省のデータによると、企業のオフィスや家庭などにおけるCO2排出量は増加の一途をたどっている(図1)。毎年3%程度の割合で上昇し続けており、自動車や貨物車など運輸部門が排出するCO2排出量をまもなく上回ってしまう勢いだ。工場など、環境に与える影響が大きいとみられてきた分野は、環境対策が進み一定の成果を上げている。

図1●二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)排出量の経年変化。企業のオフィスなどで排出される量が年々増えている
図1●二酸化炭素(CO2)排出量の経年変化。企業のオフィスなどで排出される量が年々増えている
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厳しくなる省エネ基準

 オフィスで多くの電力を消費しCO2排出量に悪影響を与えているのは、クライアント・パソコンやサーバー、プリンタなどのIT機器である。IT機器の省エネ・プロジェクトを管轄する経済産業省の星野岳穂参事官は、「IT機器の利用はますます増えるだけに、その消費電力を抑えるための対策は急務だ」と話す。IT機器に対する環境対策を怠れば、情報システムが企業における環境対策の足を引っ張ることにもなりかねない。経産省は、IT機器全体の省エネを実現するための技術開発に向け、「グリーンITプロジェクト」を立ち上げ、08年度に50億円弱を投入したい考えだ。

 これまでも、プロセサやサーバー、ノート・パソコンなど、省電力化を進める動きはあった。だがそれらは、サーバーを設置するデータセンター内で供給できる電力量が限られていたり、バッテリでの連続稼働時間を延ばしたりすることを目的に掲げた。環境配慮型の省電力化では、電力は使わなければ使わないほどよいという形に変わる。

 実際、1995年10月から米環境省と経済産業省が共同運用している「国際エネルギースタープログラム」では、この6月に認定基準が相対値から絶対値に変更されている。富士通 パーソナルビジネス本部の田中重穂氏によると、「従来とは比較にならないほど、満たさなくてはならない消費電力の基準は厳しくなっている」。

 ITベンダー各社による、製品の消費電力削減に向けた取り組みも急速に高まっている。その表れの1つが、米国で設立された2つの業界団体である(表1)。1つは、07年2月設立の「The Green Grid」。データセンターの省エネ対策を促進するのが目的だ。AMD、APC、デル、HP(ヒューレット・パッカード)、IBMなどに加え、日本からは伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が参加する。

表1●2007年に入り、IT機器の電力問題を検討するための2つの業界団体が設立された
表1●2007年に入り、IT機器の電力問題を検討するための2つの業界団体が設立された

 もう1つは、インテルとグーグルが発起人となり、この6月に設立された「ClimateSaversコンピュータ・イニシアチブ」である。デル、EDS、HP、レノボ、マイクロソフトなどのほか、日本企業としてはNEC、日立製作所、富士通が名を連ねる。IT機器の省電力策の標準化や、電力を消費しない使い方のガイドラインの作成などを計画している。

 こうした動きを受けて、「省電力」をうたうサーバー製品などが増えている。次回は、PCサーバーの省電力化の動きについて紹介する。