「数年後、日本市場を舞台に、アクセンチュアやIBMなどの米サービス企業と、当社やウイプロ、インフォシスなどのインド企業が覇権を競い合っていることだろう。このような大きな刺激がないと、日本の顧客もITサービス業界も良くならない」。インド最大手であるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)ジャパンの梶正彦社長は、インドサービス企業が“黒船”になると話す。
この梶社長の指摘を、「日本市場に土足で上がり込んで争うのか」と怒ってはならない。今や世界はフラットであり、「日本語や商慣習の厚い壁に守られている」と安心しきっている、JISA(情報サービス産業協会)を中心としたITサービス業界の方がおかしいのである。日本は南海の孤島「ガラパゴス」のように旧世代の生き物がゆったりと歩けるパラダイスではない。その良き時代は終わったと認識すべきで、日本と世界の時差は存在しなくなる。
現在、欧米市場では、確立された米国系サービス企業と、ここ数年で力を付けたインド系サービス企業との間で、日本に居ては全く想像もできない熾烈な競争が展開されている。これまでインド企業といえば、せいぜい5000万ドルから2億ドルのサービス案件を獲得する程度だったが、去る9月にTCSがオランダの視聴率調査会社であるニールセンから10年で総額12億ドル(約1300億円)を受注して業界を揺さぶった。
10億ドルの障壁を、IBMやアクセンチュアを相手に回し契約を勝ち取ったという事実は、TCS、そしてほかのインド企業が別の部類に入ったということだ。アクセンチュアの程近智社長は、「ライバルはIBMとインド企業」と明快だ。「インド企業はサービスに新しい価格基準を確立した。だからアクセンチュアはインドに進出して彼らと同じ環境を作った」(程社長)と言う。これはIBMとて同じ。IBMは昨年6月、インドに開発研究所やデリバリーセンターを設立し、「インドの高いスキルを取り込む」とインドを明確に位置付けた。2010年には、IBMグローバルサービス従業員19万人の5割強がインド人と見られる。
表1はインド大手3社の全従業員数と米系3社のインドにおける要員数の変化。インド3社は社員の70~80%が国内にいるから、6社のインド国内要員は 1年半で21万から31万へ10万人増えた。このスピードを業績が証明する。インド3社は年35~40%売り上げが増え、純利益率も20~25%と驚異的(表2)。TCSは08年度で売上高は1兆円を超える。時価総額は3兆円だ。
表1●これが世界ITサービス業界のスピード(インド拠点の社員数) | ||||||||||||||||||||||||||||
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表2 ●ITサービス業界の成長率と利益率 | ||||||||||||
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こういうインド企業とて、(1)10年前はオンサイトの派遣ビジネスが中心、(2)西暦2000年問題のオフショアで伸び、(3)2000年からは請け負い型のSIに進出、(4)SIでの信頼が04年からの業務ソフト保守やコンサルティング開始に結び付いた、という流れで成長。3~4年でサービスモデルを変革している。日本企業の多くは、今も昔も(1)か(2)が中心ではなかろうか。「日本の顧客はITサービス会社に払いすぎ」。TCSジャパンのアショック・パイ副社長の声は、将来に向けた不気味な余韻を残す。